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「手本の見方」 – 4つのステップできちんと書けるペン習字練習法

最初のステップでは、先生がしきりに仰る「手本をよく見てから書きなさい」そのよく見るとは具体的に何を指すのか、について説明します。

「手本をよく見る」がもたらす効果

手本をつぶさに観察する工程は、ペン習字上達の大動脈となる重要なステップです。

このステップのねらいは、審美眼を養うとともに、「目は肥えているが実際の技能は未熟である『眼高手低』の状態を作り出すこと」にあります。

眼高手低とは「批評する力はあるが、実力が伴っていない」あまり良い意味として使われない言葉です。しかし、目が肥えているからこそ、現在の技能に粗が見え、改善すべき点が見つかります。

これはつまり、今の自分より少しだけ上手な批評家を自分の中に住まわせるわけで、目習いによる練習は、自助努力を成立させるための下地作りともいえます。

手本の具体的な見方

市販の教本で手本の見方を示した具体例は、山下静雨先生の著書が分かりやすいです。

手本の見方

ペン字の練習をしているある人は「チェックポイントを発見する作業はパズルを解くようで楽しい」といいます。手本をここまで克明に見て、楽しみながら書くことができれば、間違いなくぐんぐん上達するでしょう。

手本をよく見て書くとは、つまり手本とそっくりに似せて書く、ということ。字が上手になるには、まず物まねから始めるのが基本で、何の練習でもこれは同じです。(p12)

『一日10分で字が見ちがえるほど上手くなる』山下 静雨(著) (2002/07)

本書では、目習いについて「手本を克明に見る = チェックポイントを発見すること」と表現しており、字形を細かく分析していく学習姿勢が重要と説いています。

さらに次ページでは、「手本と同様に書くチェックポイント」を見つける具体的な方法を示しています。

書写におけるチェックポイントの見つけ方

「最」の文字に中心線を引いて観察する その1

「最」の文字を観察する その2

「最」の文字を観察する その3

「最」の文字を観察する その4

『一日10分で字が見ちがえるほど上手くなる』より p13

中心線を基準として点画の位置情報を探ったり、線同士の並び方を比較するなど、8つのチェックポイントを取り入れながら真似ると、手本そっくりに書けると説明しています。

ただ、右も左も分からない人がこれらのチェックポイントを自ら導き出せるかというと、やや難しいかもしれません。

そこで手本の見方に共通する法則をいくつかまとめてみました。

揃えるか、はみ出すか

線の書き出し・書き終わりの位置を基準にして、その後に続く画が「揃っているのか、はみ出ているのか」といった具合に観察すると、より正確に字形を捉えることができます。

「最」の文字を「揃えるか、はみ出すか」で観察する

上の図解は、「最」の第9画目である起点を基準にして、「ヌ」の部分をどのように書くか、という見方を示しています。

水平の補助線を入れると、その特徴が分かりやすいです。

  • 「ヌ」にあたる第1画目の収筆は、9画目の起点と揃える。
  • 「ヌ」にあたる第2画目の収筆は、9画目の起点よりわずかに下へはみ出ている。

ということが見て取れます。

「最」の文字を「線分の比率」から観察する

同じく上の図解は、「最」の第5画目(いちばん長いヨコ画)の「書き出しと書き終わりの位置」を基準にして、その後に続く画を揃えるか、はみ出すか、という見方を示しています。

  • 「最」の第9画目である起点は、5画目の書き出しより内側に入る。
  • 「最」の最終画である収筆は、5画目の書き終わりよりわずかに右へはみ出す。

ということが分かります。

このように文字で説明すると難解ですが、山下静雨先生の著書にあるチェックポイントを発見する作業はパズルを解くようといった表現は、おそらくこのような見方を示していると思われます。

線分の比率をしらべる

他にも、「線同士が交わった部分を境として、区切られた2つの長さを対比させる」といった見方があります。

「走」の文字を「線分の比率」から観察する

「走」の第2画目は、最初の画のちょうど真ん中を通り、続く第3画目は、右側をやや短くする、といった具合に観察できます。

「可」の文字を「線分の比率」から観察する

「可」の第2画目は、最初の画を3等分すると、書き出しの位置が見えてきます。

線分の長さを測ることによって、次に続く画の書き出す位置を見極めやすくなる、という観察方法でもあります。

線の反り具合をしらべる

微妙な線の反り具合も観察対象に入ります。

微妙な線の反り具合を観察する

ヨコ画ひとつをとって見ても、

仰勢(ぎょうせい)
中央部がやや下がる弓なり線。
平勢(へいせい)
ほぼまっすぐな線。
覆勢(ふくせい)
中央部がやや盛り上がる弓なり線。

このような違いがあります。

「寸」の文字の特徴を観察する

タテ画は基本的に直線が好ましいですが、中には緩やかに反る線が存在します。

この微妙なニュアンスを真似できるようになると、筆致が一気にペン習字らしくなります。

余白の形を捉える

余白の形として捉える観察方法

これは線で囲まれた空間を形として捉える見方です。

ひらがなのような結びが多い文字を観察する際に有効です。

関連 ひらがなの字源から分かる結びの形

紹介した手本の見方はほんの一部です。ペン習字の先生によっては、さらに多くの見方を用いて手本の字形を分析しているかもしれません。

このように手本を効率よく書写するための着眼点を予め導き出しておくと、次のステップ「手本を見ながら真似る」の工程が捗ります。

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ステップ2 - 手本を見ながら真似る