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「字が上手くなる方法」と「絵が上手くなる方法」には共通点が多い?

ペン習字で得た気付きと絵心の関係を自分なりに検証した話、第2回目は書写と模写の共通点について探ってみた話です。

この記事を3行でまとめると…

  • 格子線を参考にした描き方ってペン習字の練習法と似ている。
  • 手本の観察方法をいくつか解説。
  • 上手にマネする力は自分を表現する土台になるのでは。

もくじ

真似て学ぶ姿勢が似ている

書道では、古典から字形や筆使いを真似て学ぶ「臨書」と呼ばれる練習法があります。

臨書には3つの方法があり、

形臨
字形を真似することに重点を置く練習。
意臨
筆意を汲みとることに重点を置く練習。
背臨
手本を見ずに記憶を頼りに書く練習。

臨書によって基本的な技法を習得し、自身の作品づくりへ活かす学習のねらいがあります。

一方で、絵画では臨書とよく似た「模写」と呼ばれる練習法があります。

模写は、美術において、他者の作品を忠実に再現し、あるいはその作風を写し取ることでその作者の意図を体感・理解する為の手段、方法

引用元:ウィキペディア

学習のねらいが臨書とほぼ同じです。

『罫画法』 駒野政和 著

明治時代の尋常小学校では、手本絵を忠実に写す「臨画」が図画の授業の中核となっていました。臨画を通してモノの形の捉え方、筆や鉛筆の動かし方を習得していたのです。

また、中国に現存する最古の画論、六法(りくほう)1では、東洋画制作のための模範的な態度を説いており、そのうちのひとつ、伝模移写(でんもいしゃ)には「模写を通じて古画の技術や精神を学びなさい」という教えがあります。

文字・絵画の分野では、古人の軌跡をつぶさに学ぶ姿勢が古今東西に渡って価値ある行為とされているようです。

形の捉え方がほぼ同じ

前回の記事、お絵かきゲームソフトで絵心が好転した話にはタネのようなものがあります。

格子描きでフォッコを描く

私がフォッコをそれらしく描けたのは、グリッドを表示する機能のおかげでした。格子線を頼りに線の長さや曲がり具合を確かめながら描くと、手本とするイラストに似通った絵が描けました(見比べるとだいぶ違うけど)。

調べてみて分かったのですが、格子線を使って対象を正確に描写する方法は、絵画の世界では割りとオーソドックスな手法のようです。

デッサンスケール

石膏デッサンでは、「デッサンスケール」や「はかり棒」といった補助道具を使って、長さ・大きさの比率を計測しながら対象の形をつかみます。

これは「格子描き」と呼ばれる手法で、絵が上手くなる導入練習としてプロアニメーターの方が模写を推奨しています(9分50秒から格子描きの実演)。

そういえば、ペン習字でも格子を目安にして対象を写し取る学習アイテムがありました。

書写に役立つ十字リーダーの存在

ジャポニカ学習帳

児童向けに発売されている漢字練習帳には、マス内に十字リーダーと呼ばれる補助線が入っています。ペン習字を始めたての頃はよくお世話になっていました。

ボールペン字講座のテキスト

また、ボールペン字講座の練習帳にも十字リーダーが入っています。「手本をよく見て書きなさい」この教えに準じるのに役立つのが補助線の存在です。

書道の臨書では、さらに多くの補助線を加え、形を正確に捉えることに努めています。

YouTube で検索してみると、中国人の方が米字格を使って臨書をしている動画がありました。米字格の書道下敷きも存在するようです。

ただ、日本ではこのような補助線を活用した練習法は馴染みが薄いようで、私が所有しているペン習字の教則本では十字リーダーの役割を詳しく説明した記述は見つかりませんでした。そもそも十字リーダー自体の存在を気にかける人はあまりいないのが実際のところではないでしょうか。

そこで、補助線を引いて形を捉える手本の見方について触れておきます。

ペン習字における手本の見方とは

山下 静雨先生の著書『一日10分で字が見ちがえるほど上手くなる』では、まえがきの一部に手本の見方についてこう記されています。

手本の見方……線を引いてみる

ペン字の練習をしているある人は「チェックポイントを発見する作業はパズルを解くようで楽しい」といいます。

上下の複合系漢字なら、下側の部分は上部のどのあたりに、どのくらいの大きさで書いてあるのか。傾きは、大きさは…と、その位置や大きさなどの関係を克明にチェックすることが大切です。

手本をよく見て書くとは、つまり手本とそっくりに似せて書く、ということ。字が上手になるには、まず物まねから始めるのが基本で、何の練習でもこれは同じです。

引用元:『一日10分で字が見ちがえるほど上手くなる』 ベストセラーズ(2002)

手本の見方

補助線を引くことによって点画の位置関係を探っている様子が伺えます。ペン習字の経験を積んだ人は、大なり小なりこういった観察の仕方に行き着くのではないかと思います。

私自身も手本の見方については、いくつかのパターンを持っており、過去記事では手書きフォントを題材にしてその形の捉え方について触れています。

横線・縦線を引いて形を捉える

お役立ち度:★★★

横線・縦線を引いて形を捉える

山下先生の著書で説明されている形の捉え方です。

始筆や折れる地点を基準にして横線、縦線を引いてみると、それぞれの点画の位置関係が分かりやすくなります。

書き始まり・書き終わりの位置で形を捉える

お役立ち度:★★☆

書き始まり・書き終わりの位置で形を捉える

始筆と終筆の位置を座標で捉える見方です。

十字リーダーによって、一画目の始筆をどこに置くかが分かりやすくなります。

十字リーダーの縦軸が中心線の役割を担っているので、練習を重ねるうちに、どの文字に対してもセンターラインを捉える感覚が自然と身につき、左右にブレないタテ書きが出来るようになります。

参考リンク)手本ってどうやって見て書くのよ? – 美文字 特訓(ペン習字の日記)

大まかな外形で形を捉える

お役立ち度:★★☆

大まかな外形で形を捉える

田中 鳴舟先生の著書『いつのまにか字が上手くなる本』 では、字の外形をパターン分けしておくと、字形の特徴がつかみやすくなると説明しています。

これは、手本を見ずに書く自運の際に役立つ形の捉え方で、文字の外形を大ざっぱに把握しておくことで、それを足がかりにバランスのよい字が書けるようになります。

分割して形を捉える

お役立ち度:★★★

分割して形を捉える

分割した線の一部を基準にして比率を測る見方です。

山下先生の著書内で、「チェックポイントを発見する作業はパズルを解くよう」と表現されているのは、文字の点画を自分にとって分かりやすい比率に分解する工程を指しているのだと思われます。

余白の形(シルエット)で形を捉える

お役立ち度:★★☆

余白の形(シルエット)で形を捉える

「は」「ま」「な」のような結びの形を捉えるのにも役立つ見方です。

参考記事)ひらがなの字源から分かる結びの形

曲率で形を捉える

お役立ち度:★★★

曲率で形を捉える

手書き文字に温かみがあると言われる所以は、文字を構成する点や画が流線的であったり、ゆるやかな丸みを帯びた曲線が穏やかな印象を与えているせいかもしれません。

その微妙な曲がり具合を意識して捉える見方です。

これらの形の捉え方は、格子描きでフォッコを模写した際にも役に立ち、書写と模写では形の捉え方が随分と似ているのだなと感じました。

正確に対象を描写する練習は、モチーフを正しく捉える観察眼を養うだけでなく、手癖に流されない書き方を身につけるうえで有用なのではないでしょうか。

表現のためのルールは規範から学べばいい

子どもの頃、図工の授業で教わったのは、自由と個性を重視した自分らしい表現方法でした。いわゆる「心に映る印象をありのままに描きなさい」といったものです。そう言われたところで表現する術を知らないのだから、ただうろたえるしかなく、努力してもどうにもならない壁と対峙するこの時間が本当に苦痛でした。

一般的に、複写する行為は、「個性や自由な創作意志を阻害する」といった風潮があります。しかし、目の前にある手本すら正確に描けないのに頭で想像したことを描くなんてどうやってできるのでしょうか。基礎がないところに個性は育たないと私は思います。

古典の臨書のみに終始したり、師風一辺倒である様子は「奴隷の書」「奴書」と蔑まれますが、それは研鑽して心得がある人に対して用いる言葉で、始めて間もない人は、むしろ人まねから規範を学ぶほうが上達の理にかなっています。

上手に真似する力が、ひいては自分を表現する土台になるのではないでしょうか。

  1. 中国の六朝時代の画家である謝赫(しゃかく)によって著された最古の画品書・古画品録(こがひんろく)内の序文。 []

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