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いつものクセ字に戻るのを防ぐ、脳内手本の育て方

日常生活に伴う筆記作業は、書くことのみに集中できる場面とは限りません。

電話の取次メモといった、話を要約しつつ筆記速度が求められる場面ではペン習字の恩恵にあずかるのが難しく、普段の字に戻りがちです。

日頃培ってきたペン習字の技術を常に一定のパフォーマンスで発揮するにはどのような視点が必要なのか考えてみます。

このページ 3行まとめ
人間の脳には字体を保存できる貯蔵庫がある
理想とする字体を頭の中にインストールすれば、
手本が手元になくてもきれいな字が書けるようになる。

手本がないと汚文字になる悩み

ペン習字を数年続けた人の特有の悩みとして「手本が手元にないと普段の字に戻ってしまう」といった声を耳にします。

「書字のリバウンド」ともいえるこの現象は、頭の中でイメージする理想の字形が曖昧であるために手先で再現しようとする字形もまたイビツになってしまうのが理由のひとつとして考えられます。

このような書字のリバウンド現象を防ぐために脳の「ある機能」に注目してみます。

言語野の後ろ側には字体を保存できる貯蔵庫がある

NHK放送「ためしてガッテン」では、過去にクセ字を克服する方法を特集しています。

その放送内で美文字に関する研究成果の事例が紹介されていました。

京都大学のグループが、f-MRIという装置を使って、人が字を書く時の脳活動を調べました。

ある言葉を聞いてそれを口に出したり、その意味を考えると、脳の左側にある言葉の処理に関わる脳の部分である「言語野」(げんごや)が活動します。

しかし、字を思い浮かべると、言語野の後ろ側に特徴的な活動が出現することがわかりました。ここに「字の見た目の形のデータ」が蓄えられていると考えられます。

人は、ここに記憶された「字の形」を思い出すことで、字を書くことができると考えられます。

ためしてガッテン – 発見!脳の中にある文字

この放送回1では、現在も書写教育の研究に携わっている青山浩之先生が出演され、青山先生の著書にも「字体を保存できる脳の部位」についてさらに分かりやすく言及しています。

脳の中には言語野と呼ばれる部分があり、私たちが言葉を話すときには、主にここが働きます。ところが、文字を思い浮かべるときには言語野とは別の部分が働いていることが知られています。

言語野より少し後ろの部分なのですが、ここが脳内文字の貯蔵庫といえます。私たちが文字を書くときは、この貯蔵庫から文字を一つずつ選んで引き出し、手の動きを通してその形が表れます。

『今すぐ「美文字」が書ける本』 青山浩之(2012)

つまり、私たちが思い浮かべる文字は、字の形を伴って想起されるものであり、その形は訓練次第で変化させることが可能なのです。

字体を記憶する部位

字体を記憶できる脳の機能が存在するなら、ココに理想とする字形を詰め込めば、どんな状況でもきれいな字が書けるようになるはずです。

天使の自動筆記(ラブリーゴーストライター)

厨二病っぽい表現に置き換えるなら「自分好みの書きぶりを強く記憶することで脳内文字が書き換わり、能力の一部として自在に使用できる」とでも言いましょうか。さながら念能力のようです。しかも習得条件はそれほど難しくない。

ペン習字の基本は、手本の特徴を捉え、その書きぶりを精密に書写することです。これは、脳内で自分好みの手本を育成し、それを引き出すための訓練と言い換えることもできます。

しかし実際のところ、人間は意識しないと3日前の朝ごはんすら覚えていない、忘れるのが得意な生き物です。生命維持に関係しない情報は、脳にとっては本来不要であるため、繰り返し覚えこませる必要があります。

既に存在している迷惑な脳内文字を手本のような美しい字形に置き換えるにはどのような手立てが有効なのでしょうか。

ペン習字上達の秘訣は、脳内手本を育てるサイクルにあり!?

以前、購読していたブログに気になる表現がありました。

書いて、見る。見て、比べる。比べて、考える。考えて、知る。知って、書く。

このループを螺旋状に積み重ねることのみが、ペン習字の上達の道のようだ。

11級編(9)とてつもなく地味である | よい手がほしい 20年遅れのペン習字

ペン習字の練習について、一筋縄ではいかず、苦心されている心境を表した興味深い記事です。

引用元の表現にあったような「書いて、見て、比べて、考えて、知る」私はこの一連の行為が脳内手本を育てる上で欠かせないサイクルだと考えています。

脳内手本を育てるサイクル

1. 書いて、見る
手本を真似て書くもっとも基本となる練習。
2. 見て、比べる
書いた文字を手本と比較する。
3. 比べて、考える
手本と比べて「何かが違う」と感じる違和感の原因を考える。
4. 考えて、知る
具体的な修正ポイントを見つけ出す。
5. 知って、書く
誤りを正すためにもう一度書いてみる。

書道で言うところの「目習いの上達」が2,3,4の工程にあたり、1,5の工程が「手習いの上達」に寄与します。

このサイクルを繰り返し積み重ねることがペン習字上達の秘訣であり、脳内手本を着実に育てる方法になるのではないかと考えます。

美しい字はお金の掛からないオシャレ

ペン習字を実生活で活かすには、手本とする文字の形を強く想起するだけでは不十分で、脳内手本を忠実に再現する手先の技巧性を別途に必要とします。

書店で見かけるペン字教本は、「○日で必ず上達──」といった、さもすぐに効果が表れる書籍タイトルとなっていますが、ことほどさように、ペン習字はそう都合よく成就しない奥の深い習い事です。

それだけに、相応の努力を経て書けるようになった美しい字は、生涯に渡って実利をもたらしてくれます。

  1. 2008年10月8日放送分(NHK ガッテン!) []

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