2級 速書き問題の概要
硬筆書写検定2級の第1問は、4分以内に130文字の文章を書き写す問題です。
答案する際の注意点や具体的な練習法については、3級編で解説しています。速書きの2級編では、それらの要点を改めておさらいしていきます。
3級 速書きとの違いは?
- 文章量の増加
- 125文字 → 130文字へ。
- 書きぶりに対する要求レベル
- 字形が整っているか。
- 字間、字粒、行頭・行尾が揃っているかなどの審査基準がやや高く。
3級と比べると、速書きのポイントである「正しく、速く、美しく」への要求レベルが1段階あがっています。
実生活における書き癖を如実に反映する問題でもありますので、ペン習字を意識した常日頃の筆記がそのまま問題対策へと繋がります。
実際の合格答案例
(硬筆書写技能検定の手びきと問題集 平成27版より)
これは2級速書きの合格答案例です。
「どれだけ書ければ合格レベルに達するのか」は、速書き問題全般に言える不安要素でもあります。合否を分けるボーダーラインを可視化する意味でも、実際の合格例を目にしておくことは有効な手立てです。
「この程度だったら今の実力でもいけそう」という人は苦手な問題対策に時間を割き、「やはり不安が残る」という人は次にまとめる速書きの要項を参考にしてください。
速書き問題の要点 おさらい
答案における注意点
- 4分(240秒)以内に問題文を全て書き終えること(大前提)。
- 誤字には斜線、脱字にはキャレット(Vの記号)を挿入し、空いたスペースに正しい文字を書く。
- 数字、数詞は2行にまたがらないように。
有効な練習法
メトロノームを使って筆記ペースを掴む
2級の速書き問題では、4分(240秒)以内に130文字の文章を書き写します。
書き終わった後に見直す時間を30秒のこす場合、1文字あたり約1.6秒で書くペースが必要となります(時間いっぱい使うなら1文字あたり約1.8秒のペース)。
3級編と同じく、ほぼ1.7秒おきにリズムを刻むメトロノームを使うと、目安となる筆記ペースを掴みやすいです。
ただ、実際の速書きでは、画数の多さによって1文字ごとの筆記ペースが変化します。ひらがなは概ね1秒で書けますが、「馬」「鳥」のような漢字は2秒程度かかるかもしれません。
単体文字を繰り返し書き続ける初歩練習を行う際には、上記の動画が役に立ちます。
速書き練習に適したノートは、大学ノートB罫
大学ノートB罫(罫線6ミリ幅)は、速書きに適した練習紙です。
速書きの答案用紙は、1行が12ミリ罫となっています。
大学ノートB罫の2行分を1行として使うことで、ヨコの中心線が発生し、行のうねりを予防できます。さらに、横幅を139ミリに設定すると実際の答案用紙と同じ環境になります。
1行あたりの文字数を15~16字程度に設定し、それに合わせる形で
- 字粒・字間を均等に。
- 行頭を揃える(できれば行末も)。
- 数字・数詞は、2行にまたがらないように。
- 数字は、斜体もしくは直立体のどちらかに統一する。
といったポイントを意識した実地訓練によって、速書きが上達します。
試験直前の対策としては、「過去問」と「タイマー」を使った数稽古が有効です。練習ノート1冊を使い切る気持ちで書き込んでおくと、然るべき筆記速度と時間配分が身につき、気後れすることなく試験に望めます。
行書で書く必要性について少し
楷書は、基本的に「とめ」「はね」「はらい」を厳格に書く必要があります。筆記速度を上げることで筆致がどうしても乱れてしまうときは、平易な行書を取り入れて文章全体の総画数を減らすと字形が安定します。
比較的簡単に覚えられる行書といえば、次のようなものでしょうか。
画数が多い漢字もそうなのですが、「しんにょう」や「糸へん」など、「とめ」の箇所が多い楷書は時間ロスが大きく、速書きの観点から見ると実用の「用」は行書に軍配が上がります。
各書体の運筆リズムを比較する表現として「楷書は立つように、行書は歩くように、草書は走るようにように書く」という言葉があるくらいですから、行書を用いた答案方法は、時間短縮という意味でも大きなアドバンテージを持ちます。
ここから先は、私的な速書きのコツについて説明します。
(既に要点を押さえている人にとっては参考にした結果、調子が狂う恐れがあります。)
はじめに要点をまとめておくと、
- 木を見ず”森”を見る。
- 鷹の目を持つ。
- そのための練習と捉えると発見がある。
これらの視点がターニングポイントになるのではないかと考えています。
どこを見据えて練習すると速書きが身につくのか
速書きに苦手意識を持っている人が多くいるにも関わらず、そのノウハウを伝授してもらえる機会はあまりにも少ないような気がします。
参考になる手持ちの資料といえば、パイロットペン習字のテキスト『ヨコ書き編』くらいなもので、硬筆書写検定の講習会にも何度か参加しましたが、速書きの対策法だけは教えてもらえずじまいでした。
書きやすいボールペンであったり、長文を記憶する鍛錬であったり、その場しのぎに近いコツを考えついても要領は得ず、「毎日繰り返し何百回と書く」これが私の知っている唯一の対策法でした。
仕方なく実践し続けていると、活路が見える発見がいくつかありました。そのひとつが鷹の目を持つことです。
ペン習字が引き起こす書き癖からまずは離れる
案外やさしいのに、受験者から恐れられているのが、硬筆検定試験の第一問の速書きです。(中略)
少しも速書きではありません。普通に書いていけば最後まで書き終えることのできる程度です。
ただ、ペン習字を学習した人の方が美しく書くという意識が強いせいか、ペン習字を学習していない人に比べて速度が遅くなる傾向があるようです。
やはり、第一問・速書きとして、それのための練習をしなければなりません。
- パイロットペン習字通信講座テキスト『ヨコ書き編』p47
ペン習字を習うと、止めるべきところは止め、払うべきところはしっかり払う、一点一画を丁寧に書く所作が身につきます。さらに手本に対する観察力が高まり、書写力も向上します。
その結果、弊害というと大げさですが、目線はペン先の行方しか追っていないケースがしばしば起こります。
寸分の狂いなく手本の書きぶりに近づこうとするのは習字の本分であり、形臨から学べることはたくさんあります。それ故に点画の正確な長さや払いの角度といった細部に心を奪われ、木を見て森を見ない書き方となりやすいのです。
蟻の目とでもいいましょうか、ペン習字の書き癖が身についてしまうと、一点一画がどの方向に向かおうとするのか厳しくチェックするため、今まさに書こうとする線の先端に意識が向かいがちです(少なくとも私の場合)。
二手三手と先を読む範囲が点画レベルに留まってしまうため、この意識で速書きを行うと、筆致は乱れに乱れ、同じ字を何度書いても字形の統一すらままなりません。次々と新しい線を書き出す状況下で蟻の目は使い物になりません。
そこで鷹の目の出番です。
これから書こうとする文字を俯瞰する形でペンを動かしてみます。目線は確かにペン先を追っているのだけれど、そこばかりに意識が向かうことはなく、どこかゆったりとした視野の中で運筆します。不思議なもので、結構書けます。
そもそも、多くの人は日常筆記を鷹の目で書いているのかもしれません。書き起こす文字の形は既に投影してあって、それをなぞるような感覚でどんどん書き進めているイメージです。
蟻の目が手に入るペン習字を習うことで、何気なく出来ていた鷹の目との切り替えが上手く行かず、やさしいはずの速書きで四苦八苦してしまう。原因は視野の使い方にあるように感じます。
これまで速書きとは、「ペン習字の約束事」と「筆速」、2つのバランスの取り方に要点があると思っていました。「トメ」「ハネ」「ハライ」これらを強く意識するほど書くスピードは遅くなり、反対に、速く書こうとすると筆致が乱れます。
相容れない双方のバランスをどうやって取り持つのか。
先述の、やはり、第一問・速書きとして、それのための練習をしなければなりません
とあるように、速書きでは運筆する際の意識の置き方が要になります。
時間内に文章を書き終える一定の速さを保った上で筆致を高めるには、
- 速書きに適した視野(鷹の目)に切り替える。1
- 書こうとする文字は既に投影してあり、イメージした文字をなぞるだけで良い状態を目指す。
この視点でもって何百回と繰り返し書くと、見えてくるものがあるのではないかと考えます。
煎じ詰めれば、「速書きでも乱れることがない自運の力を身につけよ」ということなんですけどね。
- 蟻の目も適宜取り入れるようにすると、新しい発見があるかもしれません。 [↩]