2級 ヨコ書き(漢字かな交じり文)の概要
硬筆書写検定2級の第4問は、80字前後の漢字かな交じり文をヨコ書きで書く問題です。
第4問のヨコ書きは、楷書で書く条件となっています。さらに、問題文の冒頭が一字下げとなっている場合は、答案する際もそれに倣うようにします。
実際の合格例
(わかくさ通信 平成26年11月号より)
これは、2級第4問の合格答案例(一部)です。
枠に対する文字の大きさやその比率、ほどよい字間によって全体のバランスが整っています。合格点がもらえる字形の端正さについても参考になります。
答案する際の留意点 おさらい
ヨコ書き3級編では、1行あたりの適切な文字数を14~16字とし、それを守るにあたっての約束事を紹介しました。
ここでもう一度おさらいしておくと、
- 左右の余白を5ミリに設定する。
- 罫幅の半分となる字粒を基準として、
- 漢字(1) > ひらがな(0.8) > カタカナ(0.6) の比率を保ち、
- 字間は等間隔に見えるように。
というものでした。
このページでは、3級編で言及したヨコ書きのコツについて各種資料をあたりながら深掘りしていくことにします。
ヨコ書きには数種類の様式がある
新聞の見出しにヨコ書きを取り入れるようになったのは、戦後間もない1946年のことで、現在の『読売新聞』が始まりと言われています。
1,000年以上も続くタテ書きの記法と比べて、左から始まるヨコ書きは一般大衆に普及し始めてから70年足らずとその歴史は浅く、ヨコ書きにおける決定的な様式というのはまだ確立していません。
(パイロットペン習字通信講座 添削課題手本集より一部抜粋)
パイロットペン習字のヨコ書き課題(206)を例にとってみると、同じヨコ書きでも特徴がそれぞれ異なっています。
- A , D系統
- 漢字や仮名など、文字の種類ごとに大きさを揃え、文字全体を扁平にまとめている。
- B , C系統
- 漢字や仮名など、文字の種類ごとに大きさを揃え、漢字をタテ長にまとめている。
パイロットペン習字のテキストでは、複数あるヨコ書きの様式について次のように説明しています。
横書きの場合、次のように二つの考え方があります。すなわち、
1.縦書きの字をそのまま横に書いていけばよい。
(従って、漢字にもかなにも、それぞれ大きい字・小さい字がある。)2.横書きには横書きの書き方がある。
(漢字・かなそれぞれの字の粒をそろえて書くのがよい。)- 『パイロットペン習字通信講座 横書き編』 p12
漢字や仮名は、漢文の流れを汲み、上から下へ流れるように書くことを前提とした字体です。字粒の大小を踏まえることで行にゆらぎが生まれ、伝統的な雰囲気を醸し出すタテ書きの特徴をどこまでヨコ書きに反映させるのか。
その割合によって、ヨコ書きの様式は多技に渡るといえそうです。
(パイロットペン習字通信講座 横書き編より p13)
上の画像 a はタテ書きの字をそのまま横に並べたもので、b は字粒をそろえて書いたものです。同テキスト内では、これらの書き分け方は個人の好みであり、どちらかが正解というわけではないと説いています。
ただ、横書きばかりしていると、しぜんといつのまにか字が横長になるといわれています。
- 『パイロットペン習字通信講座 横書き編』 p12
しぜんといつのまにか
という表現は、その書き方に合理性を感じている証でもあり、一体どんな点にメリットを感じて文字を扁平とする様式を取り入れるのでしょうか。
現代的なヨコ書き 3つのメリット
和洋の語句やあらゆる記号が混在する現代の文書においては、文字の種類ごとに大きさを揃え、文字全体を扁平にまとめる様式の方が書きやすい側面があります。
先ほど例に挙げた「パイロットペン習字A , D系統」の書きぶりがそれにあたり、具体的には次のような長所があります。
- 文字を扁平にすると、横への流れを感じやすい。
- 字粒を揃えて書くと、文字の並びがきれいに見える。
- 多様な文字(ローマ字や数字など)を交えて書いてもまとめやすい。
(パイロットペン習字通信講座 横書き編より p17)
上の画像は、現代的なヨコ書きによる長所がはっきりと表れている具体例です。
罫線間の下側で文字を揃えることで上部にほどよい余白が生まれ、安定感のある構成となり、さらに字粒を揃えることで上部の余白が均質化し、統一感のある書きぶりになります。
ここまで、ヨコ書きについての「大まかな歴史」と「提起されている複数の様式」、そして「現代の筆記に適した様式」について取り上げました。
ここからは、その現代的なヨコ書きの様式を硬筆書写検定に活かす答案方法について詳しく触れていきます。
はじめにまとめておくと、
- 字粒を揃えるために出来ること
- 「大きく見える字」と「小さく見える字」の特徴を掴もう
- 行を整えて書くために出来ること
- 文字の重心を理解して書こう
- 行頭・行末を揃えるために出来ること
- 文章の左端・右端にくる文字は縦の中心で揃えよう
- 適切な字間の捉え方を知ろう
といった内容になります。
字粒を揃えるための工夫
大きく見える字・小さく見える字の特徴
(日本ペン習字研究会 硬筆書写テキスト3より p9)
日ペンの『硬筆書写テキスト第3巻』では、錯視によって字粒の大小を感じやすい文字の一例を取り上げています。
画数が少ない字は、線の繋がりによって出来た大きな空間が目につきやすく、それに準じて文字そのものが大きく見える特徴があります。
また、上下に伸びていく画がある字は、字粒をそろえる段階で縦方向の圧縮率がより高まり、他の文字よりも縮めて書くことになります。
(日本ペン習字研究会 硬筆書写テキスト3より p8)
現代的なヨコ書きを実践する際には、字粒をそろえる点がポイントになります。しかし、同じ箱の面積にきっちり収めるように書いてしまうと、錯視の影響により文字の大きさが不揃いに感じてしまいます。
タテ書きに適した字体をヨコ書きとして表す際には、このような歪みの補正を知っておくことが大切です。
字粒をそろえるということは、決して同じ面積に書くことではない。
大きく見える字を小さめに、小さく見える字を大きめに書くという具合にし、結果的に”大きさがそろって見える”ように書かなければいけない。
- 『日本ペン習字研究会 硬筆書写テキスト3』 p9
行を整えるための工夫
文字の重心を理解するには
ヨコ書きで特に苦労するのは、行の中心を通して書くことです。これがどうにも難しく、タテ書きの要領で揃えようとすると、たいていは失敗します。
私の場合、文字の浮き沈みを事前に察知できず、数画ほど書いてから「これでは文字が浮いて見える、沈んで見える」と気づくことがよくあります。
その解決策として、日ペンの『硬筆書写テキスト第3巻』が参考になります。p10,11では、ヨコ書きにおいて中心を通すとは、重心を揃えること
と説明しています。
分かりやすい例として、文字の重心が反対となる同じサイズの漢字を真横に並べてみました。上の画像では「下」がやや浮き上がっているように見えます。
そこで「下」の漢字をほんのわずかですが下げてみることにしました。これで右上に向かおうとしていた行の中心をまっすぐに修正できました。
(日本ペン習字研究会 硬筆書写テキスト3より p11)
行の中心が通っているように見せるには、それぞれの文字の重心を揃えることが肝要です。
下部の空間が空くような「千」「平」「て」といった文字は浮き上がって見えるので気持ち下げて字配りを。
また、長い横画が下部にある「止」「む」「血」といった文字は沈んで見えるのでわずかに上げて配置する。
このような微調整によって行のうねりを防げます。
中心(重心)をそろえて書く場合、浮き上がって見える字はやや沈め、沈んで見える字はやや浮き上がらせて、見た目にそろっているように書くことが大切である。
- 『日本ペン習字研究会 硬筆書写テキスト3』 p11
行頭・行末を揃えるための工夫
文章の左端・右端にくる文字を縦の中心で揃える
(日本ペン習字研究会 硬筆書写テキスト3より p16)
答案する際にこれ以上はみ出してはいけない左右の境界線を設定したとき、完璧に収める形で文字を配置してしまうと、「手」「達」といった左右に空間を内包している文字が内側に圧縮されるような視角効果が発生します。
その結果、行頭・行末の不揃いを感じてしまいます。
(日本ペン習字研究会 硬筆書写テキスト3より p16)
そこで、行頭・行末にくる字は、タテ書きの中心を通す要領で、左右の境界線を文字の中心線と見なして配置するとあたかも首尾よく揃っているように見えます。
そろえて書くのではなく”そろって見えるように書く”ことが大切で、そのためには、原則として各行頭・行末の字の、縦の中心をそろえて書くべきなのです。
- 『日本ペン習字研究会 硬筆書写テキスト3』 p13
適切な字間の捉え方をつかむ
(日本ペン習字研究会 硬筆書写テキスト3より p12)
3級編で説明した「字間を等間隔に保つには錯視による影響を踏まえて文字を配置しよう」の良くない例がこちらになります。
それぞれの文字が備えている外形の端と端を等間隔に保っても、字間が揃っているようには見えません。
ヨコ書きにおいて適切な字間を保つには、「文字が内包している左右の空間」がキーポイントになります。たとえば、右側の空間が広くなる「遊」といった文字の次に書く字は、やや狭い字間に設定すると過剰な空きを防げます。
字間とは字の端と端、中心と中心の距離のことではない。
字間をそろえるためには、字と字の間にできる面積を考慮すべきである。
- 『日本ペン習字研究会 硬筆書写テキスト3』 p16
さいごに 補助線をどのように配置するか
ヨコ書きにおける補助線の配置パターンをいくつか紹介します。書きやすい方法を試してみてください。
Aパターンは、行の真ん中を通る中心線を参考にしながら中央に字配りする書き方です。
Bパターンは、準備する手間はかかりますが、行のうねりを極力おさえたいときに役立ちます。補助線が下寄りとなっているのは、文字全体を下側に収めることで安定感を感じる効果をねらっています。
Cパターンは、文字の下限を設定し、補助線の上に乗せるような形で字配りする書き方です。個人的にはこのパターンをよく使います。
最初にペンを入れる位置によってその文字の配置はほぼ決まってしまいますから、いかに第一画目を迷いなく書けるか。突き詰めていけば第一画目の起筆が配字の良し悪しを左右するのだと思います。