3級 速書き問題の概要とねらい
硬筆書写検定3級の第1問は、4分以内に125文字の文章を書き写す問題です。
字形を正しく整えるのはもちろんのこと、文章としてのまとめ方(字間、字粒、行頭・行尾が揃っている点)が優れているほど、高得点となります。
手本とする文章を見て書き写す訓練を学校教育では、「視写」と呼びます。
視写は、文章構成や表現技法を理解する学問の基礎を養うために行うものですが、この問題に限っては、ペン習字の体裁を保ちつつ速く書く能力が問われています。
速書きそのものが実生活と深く結びついており、たとえば
- 講義や会議での内容をノートにまとめるとき。
- 友人からノートを借りて写させてもらうとき。
- ふと浮かんだアイディアをメモ帳に書き留めるとき。
このような場面では、一字一字ていねいに時間をかけて書くよりも、書いた内容が一目で分かり、手早く仕上げることが大切です。
スピードを重視した書き方になるほど筆致は乱れやすくなりますので、その中で可読性をどう保つかを考えながら練習すると、日常の筆記シーンでも大いに役立ちます。
実際の合格答案例
(わかくさ通信 平成27年3月号より)
これは3級速書きの合格答案例です。
一見すると、不慣れなペン運びのようにも見て取れますが、文字の大きさはほぼ均等に揃っていて、広く取った字間によって読みやすい文章となっています(1行に15~16字程度)。
行末が不揃いな点はやや気になるものの、字形も含めてこれだけ書ければ、合格ライン(70点以上)は間違いないであろう目安として参考になります1。
速書き問題 3つの注意点
1. 制限時間内に必ず書き終えること
4分以内に全文を書き終えることが大前提となる問題です。句読点も含め、1文字でも書き漏らすとマイナス40点の減点となりますのでご注意ください。
2. 誤字・脱字があっても慌てない
答案中の目線は、問題文と記入欄を絶えず行き来することになります。もしかしたら書き間違いを起こすかもしれません。
そのような場合でも、
- 誤字のときは
- 該当箇所に斜線を引き、隣の余白に正しい文字を書きます。
- 脱字したときは
- 脱字を意味する記号を挿入した後、書き落とした文字を記します。
このように対処すれば、わずかな減点で済みます。
3. 数字は2行にまたがらないこと
読みやすさの観点から、数字が行末で途切れてしまうと減点対象になります。
そのため、問題文に数字を含んでいる場合は、1行に収めることを念頭に書き進めます。
数字が入りきらないと判断したら、行末付近から字間をやや広めに取るなどして調整してください。
この判断は見極めが難しいところですが、練習の積み重ねによって憶測がつくようになります。
「1本」「1億」「10枚」など、数量をあらわす言葉についても1行に収めるように心がけます。
3級 速書きの攻略法
では、実際にどのように対策していくか、有効な手立てをいくつかまとめておきます。
その1 実際の筆記速度を知る
3級の速書き問題では、4分(240秒)以内に125文字の文章を書き写します。
書き終わった後に見直す時間を30秒のこす場合、1文字あたり約1.7秒で書くペースが必要となります(時間いっぱい使うなら1文字あたり約1.9秒のペース)。
ほぼ1.7秒おきにリズムを刻むメトロノームを使うと、目安となる筆記ペースを掴みやすいです2。
その2 速書きのための基礎練習
パイロットペン習字通信講座のテキスト『ヨコ書き編』では、速書きに慣れるための練習法が掲載されています。テキストが言わんとする行間を補足しつつ、その練習法を紹介します。
字形・字粒・字間を揃えるために
ペン習字の悩ましい副作用でもある「美しく書きたいがために遅筆になってしまう」この意識を和らげるために、まずはウォーミングアップも兼ねて、ひらがなの「の」を繰り返し書きます。
このとき、文字の形と大きさはすべて揃うようにしてください。
上で紹介したメトロノーム動画を再生しながら書き込むと、速さと美しさの比重を測りながらテンポよく取り組めます。
練習に使用するノートは、大学ノートB罫(罫線6ミリ幅)が便利です。速書きの答案用紙は1行が12ミリ罫となっていますので、B罫の大学ノートを2行分使うとヨコの中心線を把握しながら書き込めます。
同じように、次は漢字の「口」を繰り返し書きます。ここでも文字の大きさ・形が揃うように意識しながら書き込みます。
徐々に画数が多くなります。今度は漢字の「日」です。字形・字粒の他にも「字間」が揃うと尚良いです。
テキスト内では「なん百ぺんもくりかえして書く」という言葉が何度も出てきます。体で覚えるとはそういうことなのでしょう。
ここまでのまとめとして、「の口日」を繰り返し書きます。
字形・字粒・字間が揃っていると、上下の行に同じ文字が重なるはずです。
頻出するひらがなに慣れるために
次に、日本語の文章の7割を占める「ひらがな」を中心に速書きの練習をします。
基本的にヨコ書きにおける字粒は、漢字同士、ひらがな同士で揃えるのが好ましいです。かなの字粒を揃えて書けるように、繰り返し書き込みます。
この辺りのステップから我流によるクセが顔を出しやすいです。不安定な文字をリストアップして重点的に練習します。
テキスト内の解説では、あわてふためかないで心の中ではゆっくりと、手だけは軽く速く。しぜんと手が動き、しかも少しもあせらず書けるまで書きつづける。書きまちがえても気にしないで書きつづげる。
この点が肝要と説いています。
短文を繰り返し書く
最後は、漢字とかなをまぜて、より実践に近い形で練習します。
速書き問題の場合、漢字の大きさは罫の半分に収めると見栄えがします。ひらがなは、漢字よりやや小さめに。
あやふやに覚えている行書よりも楷書に統一した方が素早く書けるという人は、それでも構いません。参考までに、上で紹介した3級の合格答案例は、すべて楷書で書かれています。
受験する級位が上がるほど行書を多用した方が楽に早く書けますので、どうしても必要になったら覚えるようにしてください。
その3 模擬テストで感覚をつかむ
『硬筆書写検定3級 合格のポイント』には、実寸の答案用紙が入っていますので、これを切り取って利用し、模擬テストを行います。
速書き問題が始まる直前には、一分間の黙読があります。
この時間を使って、
- どこまで読み込み、どの文節で区切るかおおよその見当をつける。
- 書き間違いを起こしやすい漢字はないか。
- 数字が2行にまたがる心配はないか。
問題文と記入欄を行き来する目線の移動回数は、少ないに越したことはありませんから、制限時間内に効率よく書写するためにも、黙読中はこのような考えを巡らすかと思います。
あとは、4分間のタイマーを使って、今までの練習を活かせるよう実践してみてください。
記入欄の行は必ず余ります。せせこましく書くよりも、広めに字間を取り、1行に15~16字程度におさめると見栄えが良いでしょう。
その他にも注意する点を挙げるとしたら、
- 字粒・字間は均等に。
- 漢字の字粒は罫の1/2の大きさ。
- 行頭を揃える(できれば行末も)。
- 誤字・脱字は、はっきり訂正する。
- 数字・数詞は、2行にまたがらないように。
- 数字は、斜体もしくは直立体のどちらかに統一する。
といったところです。
使用するボールペンは書き慣れたものを使うようにしてください。油性・水性どちらも使用可能です。
油性ボールペンを使用する場合は、ボテ・カスレが出にくいものを。水性ボールペンは、良好なインクフローによるにじみ、文字の黒つぶれに注意が必要です。