硬筆書写検定3級 掲示文を書くポイント

3級 掲示文を書く概要とねらい

硬筆書写検定3級の第6問は、ヨコ書きの掲示文を油性マーカーで書く問題です。

3級 第6問 問題文

この問題のねらいは「限られた時間内で掲示物に適した布置を設定し、体裁よく書くこと」にあります。

手書きとしての実用度は極めて高いのにペン習字課題の中ではあまり有用視されていない掲示書き。「社内文書」や「町内会のお知らせ」といった掲示物をあえて手書きで作成する手間暇と、オフィスソフトを使った作業効率を比べてしまうと、いまいち取り組む意義を感じられない人も多いのではないかと思います。

そうは言っても掲示書きが書写検定の設問である以上、避けてばかりはいられないわけで、ここでは少し趣向を変えて、レイアウトの基本原則を分かりやすくまとめた指南書を参考にしながら、掲示物に適した布置のパターンを私なりに解説してみたいと思います。

第6問の対策によって「文字情報をどのようにグループ化して効果的に伝えるのか」といった視点が身につきますので、ポスター書きのみならず、「手書きPOP」や「賞状書き」といった分野にも応用の範囲が広がります。

実際の合格例

3級 第6問 合格答案例

(わかくさ通信 平成27年3月号より)

まずは、3級第6問の合格答案例から。

これだけ書ければ合格点がもらえる答案例として参考になります。

ただ、何か物足りないような気もします。字形の精度はこれからの修練に期待するとして、布置の観点からさらに完成度を上げるとしたら、どんな改善点が思いつくでしょうか。

このように割り付ける方法もある

掲示文の割り付け例

掲示書きで重要なのは、遠くから眺めてもひと目で内容が伝わる点です。

私もかつてそうだったのですが、このようにアドバイスを受けてやってしまいがちなのが、余白が空かないようにと紙面一杯にデカデカと書いてしまうことです。

たしかに文字を太く大きく書くのは可読性を高める有効な手段です。その意味では、先ほど紹介した合格例は掲示書きの主旨をしっかり捉えています。

でも、もし2級合格を視野に入れているなら、さらに一歩進んで情報のまとめ方にメリハリをつける着眼点を身につけておきたいところです。

それを具体的な言葉として説明するのに役立つのが、『ノンデザイナーズ・デザインブック』に載っているデザインの4原則です。

『ノンデザイナーズ・デザインブック』
Robin Williams (著), 吉川 典秀 (翻訳)
毎日コミュニケーションズ (2008/11/19)

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著者である Robin Williams氏は、良いデザインには必ず利用されている4つの基本コンセプトを次のように説明しています。

1.近接
関連する項目をグループ化すると、情報が組織化される。
2.整列
揃えるべきところを揃えると、視覚的な繋がりが生まれる。
3.反復
特徴のある要素を規則よく繰り返すと、一貫性が生まれる。
4.コントラスト
互いの要素に明確なメリハリをつけると、読者の目を引きつける。

本書が紹介する内容は、ペン習字の経験がある人なら既に備わっている美的感覚でもあります。

これら4つの原則を掲示書きに当てはめながら、1つずつ説明していきます。

掲示文の完成度を高めるための4つのポイント

その1.近接

近接 同じ情報は近づける

「近接」は、関連性が強い情報を近くに配置すると1つのまとまった情報として認識しやすくなる原則です。

この場合、右側の項目「6月14日(日)」と「午後1時~3時は」は、いずれも日時を示す情報ですから、近付けて配置すると読み手は1つの情報として捉えやすくなります。

過度な余白は関連性を薄める

反対に、要素間の空白を広く取ると互いの関連性は弱まり、1つの独立した情報として見なされやすいです。

特に掲示書きの問題では、左側の項目「日時」や「場所」の字間を広く空けがちです。それは3文字分のスペースが必要となる「参加費」の字幅に合わせるため、というのが主な理由なのですが、読み手の都合を考えると、それでもやや詰めて配字したほうが良いように感じます。

その2.整列

整列 揃えると統一感が生まれる

「整列」は、要素をきっちり揃えることで視覚的な繋がりが生まれる原則です。

ペン習字でいうところの「行頭・行末を揃えなさい」と同じ意味です。意図的に整列した要素は格調ある表現、洗練された表現を生み出します。

ちなみに、4つの原則はそれぞれが密接に関係していますので、1つの原則を用いると結果的に他の原則が持つ効果まで適用されることがよくあります。

その3.反復

反復 特徴のある視覚的要素を繰り返す

「反復」は、特長のある視覚的要素を繰り返すことで、創作物に一貫性が生まれる原則です。

ここでいう「視覚的要素」とは、文字の太さ、サイズ、書体などを指します。

上の画像ではどんな「反復」を用いているのかというと、

  1. 1行内における文字の大きさ・太さは、すべて同じ状態を繰り返している。
  2. 項目間の余白は、一定の空間を繰り返し配置している。
  3. 行間の余白スペースも同じく、一定の空間を繰り返し配置。
  4. 主題と副題を目立つように大きく書くと、視線の流れが上下に反復しやすい(読み飛ばす人にも関心を持ってもらえる)。

他の原則と比べて「反復」は、私たちが無意識のうちに使っている美的要素かもしれません。いってみれば、箇条書きを表すリストも反復の原則を使っていることになります。

  • 小さな丸を
  • 冒頭に加えるだけで
  • 一貫性を感じませんか

「反復」は、特徴のある「何か」を規則的に繰り返すのがポイントです。

その4.コントラスト

コントラスト 2つの要素に明確な差をつける

「コントラスト」は、2つの要素に明確な差をつけると読者の目を引きつける効果が発生する原則です。

この場合、タイトルとキャプションの大きさにメリハリをつけることで、それぞれの存在感と役割に区別がつきます。

コントラストが曖昧な例

しかし、文字の大きさにコントラストを加えずキャプションまで大きく書いてしまうと、今度はタイトルの存在感が弱まってしまいました。

コントラストを付ける方法は、文字の大きさだけに限らず「文字の太さ」や「文字の色」によってもメリハリを表現できます。たとえば、薄墨のような線よりも黒々としたツヤのある線の方が白い紙面に対して映えるのはコントラストの効果です。

広い余白は主役にふさわしい

他にも、タイトル付近の余白をどの要素よりも広く空けることで「主役」と「準主役」の関係性が生まれます。これも「離す」ほど主役を明示する一種のコントラストです。

このようにそれぞれの要素には、明確な差をつけたほうがメッセージ性を感じます。恐れず大胆にメリハリをつけるのが「コントラスト」のポイントです。

ここまでをまとめると…

デザインにおける4つの原則をもう一度おさらいすると、

近接
同じ情報を近付けると、それぞれの関係性が分かりやすく見える。
整列
揃えるところをしっかり揃えると、自然な視線の流れが生まれる。
反復
一貫性のある繰り返しによって、統一感や一体性が生まれる。
コントラスト
大胆なメリハリは、読者の目を引きつける。

これらの知識によって「なぜそのレイアウトにしたのか」を言葉にできる力が身につきます。

2007年に書いた掲示文

これは私が2007年に提出したパイロットペン習字講座の課題です。

この頃は掲示書きのコツをまったく掴めず、講評欄では、

余白があきすぎて、目を持ってゆくポイントが散ってしまったところが残念です。

と指摘されました。

ここまで読んだ人なら、この課題についてどうすればもっと良くなるのか、改善点が色々と見つかるのではないでしょうか。

掲示書きの極意は、見る人に困惑を持たせないことであり、読者の視線を導く誘導路が読ませる工夫へと繋がります。

答案する際の留意点

過去問の傾向によると、3級掲示書きの問題は、ほとんどが「7行書き」で稀に「8行書き」となる場合があるようです。

冒頭で紹介した割り付けの寸法はあくまで一例に過ぎませんので、自分にとって納得できるレイアウトを用意した上で、実際の試験では流れ作業で割り付け出来るようになっておくと効率よく答案できます。

割り付けスペースが狭くなる点に注意

B4サイズよりタテ幅が狭くなる答案欄に注意

答案用紙の右下には、採点欄が印刷されています。よって、実際の割り付けは、B4サイズよりもタテ幅がやや狭い(ヨコ257ミリ×タテ324ミリ)のスペースを使用します。

「何を主役とし、どのように目立たせるのか」今回紹介したデザインの原則を用いながら、割り付けの寸法を考えてみてください。