字の練習を始めるうえで気がかりなこと。それは、使用する筆記具選びです。
使い慣れたボールペンが良いのか、それとも万年筆のような"たわむ"ペン先に挑戦するべきか。「万全な準備をしてから始めたい」と思うほど些細な悩みが噴出します。
ひとつ確信が持てるのは、ペン習字の先生が使っている筆記具を選べば極端なハズレは引かないであろうこと。
好都合な資料として、管理人が購読している硬筆の競書誌『ペンの光』では、手本を執筆する際に「どんなペンを利用したのか」についての記述があります。
そこで、2014年度に発行された『ペンの光』を元に、書きやすい筆記具の傾向を独自に調べてみました。
硬筆の競書誌でよく使われている筆記具(日ペン編)
備考欄の参考筆記具(12ヶ月分)を集計し、使用回数の多い順にランキング形式でまとめました。
※品名の青色文字は、アマゾンのレビューページとリンクしています。
油性ボールペン部門 第1位~第3位
- 1位 ぺんてる / .eボール 0.7ミリ
- 主に田中 鳴舟先生(日ペン会長)が使用。
- 2位 パイロット / BDE-15-TBB 0.7ミリ
- 複数の先生が使用。
- 3位 パイロット / アクロボール 0.7ミリ
- 複数の先生が使用。
0.7ミリによる油性ボールペンが9割を占める結果となりました。「やや太めの字幅の方が書字の見栄えが良くなる」といった理由からでしょうか。
低粘度インクの代表格であるジェットストリームはひとつも集計されない一方で、アクロボールが上位に食い込むあたり、滑らかな書き味への許容範囲を物語っているようで興味深いです1。
油性ボールペンは、ただでさえペン先が勝手に自走しやすく、低粘度インクによって筆記抵抗がさらに軽減してしまうと、ちょっとした力みで線が暴れる傾向にあります。ペン習字のような慎重にペンを運ぶ場面では、クッション材となる下敷きが必須になります。
個人的にはヌタヌタしたやや重い書き味が好みですが、ボテやカスレが出やすいのが難点です。この手のペンを難なく扱える人を尊敬します(上記の「.eボール」とか)。
ゲルインクボールペン部門 第1位~第3位
- 1位 パイロット / ハイテックC 0.4ミリ
- 複数の先生が常用。
- 2位 パイロット / ハイテックC カヴァリエ 0.4ミリ
- 複数の先生が使用。
- 3位 三菱鉛筆 / ユニボールシグノ 0.38ミリ
- 複数の先生が使用。
1位と2位は僅差でした。いずれも筆記箇所の見通しがよい細パイプのニードルチップです。「カヴァリエ」は、贈答に適したハイテックCの高級バージョンですね。
同様に、3位「ユニボールシグノ 0.38ミリ」と4位「ぺんてる / スリッチ 0.3 , 0.4ミリ」も僅かな差でした。
上位に挙がっているのは、字幅が細いタイプのペンなんですね。ゲルインクはインクフローが豊潤なため、シグノ0.38ミリと油性0.7ミリがほぼ同じ太さになります。
水性ボールペンは8本ほど集計しましたが、いずれも品名が記載されていなかったのでスルーしました。こちらも0.3~0.4ミリがよく使用されていました。
筆ペン部門 第1位~第3位
- 1位 ぺんてる / 墨液ぺんてる筆 中字 XFP6L
- 田中 鳴舟先生が常用。
- 2位 ぺんてる / ぺんてる筆 中字 XFL2L
- 田尻 清峰先生が常用。
- 3位 呉竹 / 墨液くれ竹筆 中字 22号
- 田尻 清峰先生が常用。
1位と2位の大きな違いは、インク成分が「顔料」か「染料」の違いです。耐水性が高いのが「顔料」、筆跡が水でにじみやすいのが「染料」といった性質があります。
4位にランクインした「ぺんてる / つみ穂」は、筆先のコシ(弾力)に優れ、筆ペンが不慣れな人に適しています。
デスクペン部門 第1位~第3位
- 1位 セーラー / デスクペン
- 2位 プラチナ / デスクペン
- 3位 パイロット / デスクペン
品名、字幅の記載がなく、メーカー別に集計しました。
唯一分かった品名が「セーラーデスクペン F-9 EF」だったのですがどうも廃盤らしく、現行盤はニブに「F-4」と刻印されいます。セーラー万年筆「ハイエース・ネオ」と同じタイプのニブです。
入手困難となったセーラーの廃盤デスクペンは、そんなに使い勝手が良いのでしょうか。気になるところです。
つけペン ペン先部門 第1位~第3位
- 1位 ゼブラ / タマペン No.120
- 複数の先生が常用。
- 2位 日光 / ポイントハード No.360
- 田中 鳴舟先生が常用。
- 3位 タチカワ / 日本字ペン No.44
- 複数の先生が使用。
1位の「タマペン No.120」は、弾力がやや固めのペン先です。管理人もよくお世話になっていたペン先でしたが、筆圧が高いとペン先の寿命を縮めやすい傾向があるように感じました。
「ポイントハード No.360」は、100本単位でしか購入できないようで、入手難易度は高めです。代わりに、「N-サジ(357)クローム」でしたら、ペン先の性質が似通っており、筆圧が高めの人でもかなり長持ちします。
ペン先に関しては、人から勧められたものが必ずしも合うわけではないので、3本入り300円程度のペン先を各種そろえて書き比べるのが得策かと思います。
集計して分かったこと まとめ
集計したデータの3分の1が、品名まで分からない簡単な記載に留まっていた点が残念でした。それでも次のようなボールペンがよく使用されていた傾向が分かりました。
- 油性ボールペンは 0.7ミリが好まれている。
- ゲルインクボールペンは 0.4ミリが好まれている。
- 低粘度に寄り過ぎた油性ボールペンは好まれない模様?
日ペンの清書用紙は比較的にじみやすく、そのことを反映してか、つけペンによる手本が最も多い傾向にあります。万年筆が使用された手本も一部ありましたが、全体の中では極少数でした。
他のペン習字団体ではどんな筆記具が好まれているのでしょうか。また違った傾向がうかがえそうです。
ちなみに、人気ボールペンを決める総選挙では
お気に入りのボールペンを選抜する「第4回 OKB48選抜総選挙(2014)」では、低粘度インクによるボールペンが圧倒的な得票数を獲得する結果となっています。
第4回 OKB48 選抜総選挙 | |
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第1位 | ジェットストリーム |
第2位 | ジェットストリーム プライム |
第3位 | サラサクリップ |
第4位 | ノック式エナージェル |
第5位 | ラミー サファリ ローラーボール |
- 低粘度油性インクは、 ビクーニャ > ジェットストリーム > アクロボール の順に書き味が滑らか [↩]
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