最終更新日:2015-01-29
書店でたまたま手に取った本が意外におもしろく、つい買ってしまいました。
内容は「脳を上手に騙すことで知識を効率的に身につけよう」といったモノです。ややありきたりな内容ですが、何も知らない人が読むと考え方の幅が広がるかも。
今回は本書の内容をベースに、努力が実りやすいペン字の学習法について触れてみます。
長文なので、要点のみ知りたい人は記事下段までお進みください。
はじめにまとめ
キレイな字を効率的に習得するには次の3点を意識しよう。
- 方法記憶を活用する。
- 毎日少しずつやる。
- 累乗の効果があらわれるのを待つ。
以下、順々に説明していきますね。あ、その前に1つ大事なことを。
人間は忘れる生き物
脳は覚えることより、忘れることを得意としています。「知識がなかなか身につかないのは脳がそういう性質だから」と割り切りましょう。
基本的に、脳は生命維持に必要な情報を優先的に蓄える傾向にあります。よって、文字の整え方といった豆知識的な情報は、自然と覚えが悪くなります。
ペン字の練習成果を感じにくいのも当然。ですからキレイな字形を身につける心構えとして、脳に「これは生きる上で重要な情報だよ」と勘違いさせる必要が出てきます。なかなか難しいことですが。
1.方法記憶を活用する
記憶には3つの種類があり、それぞれ次のような特徴を持っています。
- 知識記憶
- 頭で覚える記憶。
- 歴史の年号や方程式の解法など。
- 経験記憶
- 頭で覚える記憶。過去の出来事と絡めて思い起こす情報。
- いわゆる思い出。自身の体験や感情と合わせて情報を取り込むと忘れにくい。
- 方法記憶
- 体で覚える記憶。
- 自転車の乗り方や鉄棒での逆上がりの仕方など。記憶力が衰えても方法記憶だけは失いにくい。
これらの記憶を階層関係に表すと次のような図になります。
歩き方や、走り方、食べ物に応じた噛み砕き方など生命の維持に必要な情報は下段。一方、上位にあたる知識記憶や経験記憶は、人間をはじめとしたヒト化の動物がもつ高度な記憶です。
3種類の記憶に優劣をつけるなら、
- 忘れにくさ
- 方法記憶>経験記憶>知識記憶
- 応用度の高さ
- 方法記憶>経験記憶>知識記憶
- 習得のしやすさ
- 知識記憶≧経験記憶>方法記憶
少ない知識量でより多くの問題を解決する方法記憶は、経験記憶、知識記憶と比べて応用の幅が違います。
前置きが長くなりましたが、「1の知識で10の応用が利く方法記憶を使ってキレイな字を効率的に身につけよう」というのが、努力が実りやすいペン字の学習法です。
さて、この方法記憶をペン字に活用するなら、どんな学習方法がいいのでしょうか。
手本をなぞって覚える練習法。これは、いわゆる暗記系の特訓です。本書に当てはめると知識記憶にあたります。知識記憶は覚えやすいけれど忘れやすいのが特徴。きっかけがないと思い出せないのが欠点です。この場合、「手本」というきっかけがないと同じ文字を再現できません。
実用シーンでは、手本を見ずとも手本のように書く必要があります。ですから、先ほど挙げたなぞり書き練習法は、文字の大まかな特徴を捉える程度に用い、別途、練習帳に自己運筆し、再度手本と見比べる。次に修正ポイントを見つけて、もう1度書く。
- 見る
- 書く
- 見比べる
- もう1度書く
を1セットにして、手本なしでもそれなりに書けるようになったとき、方法記憶が身についたとも言えます。
2.毎日少しずつやる
「脳を騙す」という表現が何度か出てきましたが、具代的には海馬と呼ばれる脳部位を勘違いさせます。
耳の奥あたりに位置する赤色の部分が海馬です。
本書では、海馬のことを
記憶の製造工場(p75)
と表現しています。視覚、聴覚など、五感を通して感じた記憶は海馬で生成されます。
海馬は記憶の作成を専門とした部位であり、生成した記憶の保管場所は別にあります。その場所は、脳の表面にあたるしわしわの部分、大脳皮質です。海馬から大脳皮質へ転送された情報は、基本的には一生忘れない記憶、いわゆる長期記憶に変化します。
しかし、脳は忘れるのが得意な性質を持っているため、長期記憶として保存するには一筋縄ではいきません。生命の維持に必要ない情報であれば尚更です。
ここで、海馬に重要な情報だと勘違いさせるテクニックを3つあります。
繰り返し復習する
最も簡単に脳を勘違いさせる方法です。
海馬での情報保存期間は約1ヶ月。この間に情報を何度も送りつけることで、長期記憶に変化する可能性が高まります。
6時間以上の睡眠
海馬が蓄えた情報は、睡眠中に整理されます。夢を見ることで個々の記憶が関連し合ったり、不要な断片的記憶が排除されたりします。勉強したらとりあえず寝とけってことですね。
そういえば以前、任天堂DSの謎解きソフトを購入したことがありました。うんうん唸りながら考えても一向に解けない問題が1つあり、とても悔しかったです。
それが翌朝に再挑戦してみると、するすると紐がほどけるように1つの考えが思いつき正解できました。「これはよく寝て頭がスッキリしたおかげなのかな」と当時は半信半疑でしたが。
空腹時に勉強する
動物は生命の危機を感じると、並外れた力を発揮することがあります。火事場の馬鹿力とも言います。
この性質をを利用すると、お腹が空いているときや、室温が低いときの方が記憶力が高まるそうです。
以上をまとめると、脳の性質を利用した最良のペン字練習スタイルは
- 小腹が空いた就寝前に、
- 毎日20分ほど取り組み、
- その後しっかり睡眠をとる。
よく練習した日はよく寝る。たったこれだけです。
3.累乗の効果が現れるのを待つ
頑張っているのにさっぱり成果が現れない。その理由、きちんとありました。
勉強量と成績の関係は、単純な比例関係にあるのではなく、等比級的な上昇カーブを描く。(p70)
ペン字に当てはめると「成績」ではなく「上達度」といったところでしょうか。
図に表すとこんな感じです。
このように、上達度はべき乗に増えていきます。初期段階の成長が芳しくないのは当然なわけです。
もう少し詳しく。ペン字における上達度の内容を挙げるなら、
- 1の上達度
- ひらがなを練習した。曲線を書くスキルを身につけた。
- 2の上達度
- 曲線を書くスキルによって、「木」の左払いと右払いが上手に書けた。
- 「木」を何度も書いた。横線は若干右上がりの方が美しいことに気付いた。
- 4の上達度
- 右上がりの法則を使って「三」を書いた。上下の線は反らした方がキレイに見えることに気付いた。
- 「三」を何度も書いた。線の感覚は等しくした方がキレイなことに気付いた。
- 「三」を書くうちに、「王」がキレイに書けるようになっていた。
- 「王」を書くうちに、「主」も上手に書けるようになった。
分かりづらかったらごめんなさい。つまり、経験地が増えるほど応用の幅が広がるってことです。8の上達度ではさらに多くのことに気付けます。
上達を実感するには一定の期間を必要とする
一般に、勉強を始めてから効果がきちんと現れ始めるまでに、どんなに早くても3ヶ月はかかると言われます。(p72)
本来であれば、投資した時間の分だけ上達して欲しいものですが、実際はプラトー現象が立ちはだかり、成長を妨げます。
プラトーとは「高原」のこと。一種の停滞期です。これが思った以上に長い。この時期をどう乗り切るかが諦める人とそうでない人の分かれ目となりそうです。
要点のまとめ
脳の性質を利用した効率的なペン字の学習法は、
- (手本を)見る。
- (手本を見ながら)書く。
- (手本と)見比べる。
- (何も見ずに)もう1度書く。
を1セットとした、しつこいまでの反復記憶によって手本の字形を脳にとって大事な情報だと勘違いさせる。
体で覚える練習法は覚えるまでが大変だが、いちど身につけた技術は忘れにくく、色々と応用が効く。
記憶の定着を促すためにも、
- 小腹が空いた就寝前に、
- 毎日20分ほど取り組み、
- その後しっかり睡眠をとる。
といった学習スタイルが理想的。
上達を実感するには一定の期間を必要とするので、最低でも3ヶ月は焦らず地道に続けること。
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