きれいな字を書くための方法として「ペン習字」を選んだとき、いったいどんな上達法があるのか、このページでは市販のペン字教本を参考にしながら、その上達法を探ってみることにします。
- このページ 3行まとめ
- ペン習字の上達法は、およそ2つに分類できます。
- 「手本を真似る上達法」と「応用が利くルールを当てはめる上達法」
- 費やす時間と目指すゴール地点に応じて練習方法を選択してください。
市販のペン字教本から読み取れる2つの上達法
「読むだけで簡単に上達──」「1日○分で身につく──」など、書店で見かけるペン字教本は速習・速効性を謳った書籍タイトルが非常に多いです。
商業出版の都合上、著者の一存ではタイトルを決められないのがその理由にあたるのですが、それぞれの本をよく読んでみると、書字上達のアプローチについておよそ2つの上達法が混在していることに気付きます。
1. 少しの練習で”形よい字”を目指すための上達法
1つ目の上達法は、「手本を几帳面に習う必要はありません。あなたの書きぶりや個性は残しつつ、字形よく見えるポイントを取り入れましょう」といった主旨です。
従来のペン字練習法とは一線を画した取り組み方でもあります。
確かにプロのように書ければ一番よいのだろうけれども、だからといって、何もかもなげうち、ペン字だけに人生のすべての時間と情熱を注ぎ込みたいなどと思ってはいないでしょう。
人に見られても恥ずかしくない程度の、そこそこうまい字が書ければいいや、ということなのではないでしょうか。
- 『字がうまくなる 「字配り」のすすめ』 猪塚 恵美子(2007)
その道で修練を積んだ先生に対して「いや実は、そこそこの練習で人並みに字を書ければそれで構わないのですが、何か良い方法はありませんか?」とは聞きづらいですし、多くの教室はその先生が辿ってきた上達方法(数稽古)を前提とした指導となっています。
手本の型を一字ずつ覚えるのはあまりにも大変なので、多くの文字に応用が利くルールを覚えて実践した方が、わずかな労力で済みます。そのような考えのもとに編み出されたのが「右上がり六度の法則」や「すき間均等法」といった字形の整正ルールです。
いくつかのルールを覚えてしまえば、明日からでも実践できる速習性が大きな特徴です。
- 字に自信がなく、履歴書の失敗作が増えるばかり。
- 社内の伝達用メモを自筆で書くことに抵抗がある。
- 人前で書く不安感を1日でも早く取り除きたい。
といった場合には、短期間で効果を望めるこちらの上達法が適しています。
上記2冊の付属DVDを一通り見ながら実践するだけで、形よい字を書くコツが分かります。
効果のほどは人それぞれですが、人気講師が開催する1回完結型のセミナーとして見るとお得感があり、内容も充実しています。
2. 書写によって手本の特徴を学び、自分の力とする上達法
2つ目の上達法は、「真似て学ぶは上達の基本。書写の積み重ねによって正しく整った文字を書けるようになりましょう」といった主旨です。
書き込み式タイプの練習帳は、真似て学ぶ上達法に即していることが多く、これは私たちが小学生の頃に習った「かきかた」や「毛筆習字」と学習方針が似通っています。
目新しさはありませんが、着実な上達を見込める練習方法です。
一般的にペン習字の手本執筆者は、書の才覚に秀でているのはもちろんのこと、得意とする(長年研究対象としてきた)書の専門分野をいくつか持っています。
かな書道を主体として研鑽を積んだ先生は、女手のような柔らかな書きぶりとなりやすく、欧陽詢といった特定の書家を私淑する先生もまたその特徴が筆致に色濃く残ります。
過去の名筆に何十年と向き合い、昇華した手本を模範とすれば、多くの人が美しいと感じる書きぶりを習得するこの上ない近道になります。
私たちは好きな手本を学ぶだけで、その先生が蓄積してきた技術的な背景を何十分の一の労力で吸収できるわけです。
そのような伝統美を下地にすると、自然と探究心が生まれ、手本の書きぶりのルーツとなる書字分野にまで興味がおよぶこともままあるようです。
突き詰めていくと、どこまでも深く学べる昔ながらの書字の上達法です。
- 「六度法」も良かったけれど、さらに上の段階へ進みたい。
- 伝統を踏まえた美しさのもとで硬筆の基本を学びたい。
といった場合には、従来の書写による練習法が適しています。
目指す方向によって「習いやすさ」は変わる
- 模範に近づくための上達法が書写
- その人固有の美文字に近づくための上達法が字形の整字術
といった対比で見てみると、それぞれの上達法が目指す方向性が鮮明になります。
このように、ペン字教本と一口にいっても上達のプロセスに大きな違いがあります。
そのため、それぞれの本が打ち出している「習いやすさ」が必ずしも自分に合っているとは限りません。
- 少しの時間と努力で美文字を目指す人にとっての”習いやすさ”とは
- 上達のコツが多すぎず、覚えやすく、しかも実践しやすい
- ひとつのルールを多くの文字に適用できる など
- 従来のペン習字で上達を目指す人にとっての”習いやすさ”とは
- 手本との相性が良く、敬意や親しみを感じる
- 手本に倣うことが苦にならない書風
- 手本執筆者の関連書籍が豊富にある など
ですので、ごくわずかな期間で上達を望んでいる人にとっては、手本の型をいちから学ぶ書写形式の練習は相性が悪いでしょうし、かんたんに実践できる独自メソッドもまた、ペン習字を本格的に学びたい人にとっては枝葉の技術にしか過ぎず、やや物足りなく感じてしまいます。
何となく手本を真似るその前に
美文字を目指す経路はたくさんあります。
相応の時間をかけて地道に習うルートがあれば、短期間で字が上手くなる抜け道にも似たルートがあったりと、費やす時間と目的によって適した練習法を選べる、というくらいまでには、字が上手くなる仕組みは解明されています。
ですので、すべての人が数稽古を前提とした従来の練習法に倣う必要はなく、まずは即効性のある練習法で目先の悩みを解消して、そのあとゆったりとした気持ちで腰を据えて学ぶといった段階的な取り組みも可能です。
次のページでは、本格的にペン習字を習いたい人に向けて、どのような硬筆手本があるのか、選び方のコツも踏まえながら紹介していきます。