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お気に入りの硬筆手本を見つける方法【選び方のコツ】

ペン習字における最大のイベントは、良い手本との出会いに尽きると思います。

手本探しの段階からペン習字は既に始まっており、自分なりの書字を形作っていく過程で、参考とする手本の影響は計り知れないものがあります。

このページでは、様々な硬筆手本を知るにあたって[最適な場所]と[選び方のコツ]について紹介します。

このページ 3行まとめ
ペン習字の手本を比較できる穴場スポットは、駅近の大型書店。
和様っぽさ」「唐様っぽさ」を感じながら手本を見比べると面白いかも。
心ときめく手本に出会えたら、ペン習字はさらに楽しくなります。

大型書店でペン字の手本を探してみる

図解 大型書店だとお気に入りの手本が見つかるかも

ペン習字には色々な書きぶりがあることを体感できる手近な場所が書店のペン字コーナーです。

とりわけ、在庫数が豊富な大型書店では、新刊や売れ筋のペン字教本だけでなく、往年の手本集や字典を取り揃えているケースが多いです。

何から手に取ったらいいか分からないときは

書店のペン字コーナー

(目線の高さにある本に目が行きやすいですが、ペン習字の魅力は足元にもあります)

とはいえ、ゆうに100冊は超えるペン字練習本をチェックするのは大変な労力です。

気になるタイトルから順に手に取っていく方法もありますが、ここでは三体字典を手がけた先生の本から見ていく方法を紹介します。

硬筆字典の著者を知るメリット

「楷書・行書・草書」の参考手本を手書き文字として収録した辞書を「三体字典」といいます。

硬筆字典の一例『標準 硬筆字典』

このような硬筆字典は「今習っている人」から多くの要望があって出版されるもの、と管理人は考えており、字典を手がけた著者は、書字の指導・研究に長らく携わった功労者であることが想像できます。

見方を変えるとですね、硬筆字典を執筆した先生を知ることは、ペン習字の流派を知ることにも繋がり、今後あるかもしれない教室選びや競書誌を購読する際の参考にもなるんですね。

ペン習字を深く学びたい人にとっては、かなり都合が良い探し方です。

硬筆字典を手がかりに様々な書きぶりを知りたい人は、専用ページに字典リストをまとめましたので参考にしてみてください。

関連 書店で確認できるペン習字の流派【硬筆字典のリスト】

ここでは「ペン習字にも色々な手本があるんだなぁ」と体感する取っ掛かりとして、2つの流派についてその書きぶりを比較してみます。

書きぶりの印象が異なる手本を並べて比較

「どの手本も同じように見える…」状態を和らげるために、ちょっとした予備知識を身につけておきましょう。キーワードは「唐様」「和様」です。

ペン習字は、筆墨の利便性が薄れ始めた昭和初期から発展・普及したもので、硬筆の手本そのものは、大元をたどると中国と日本の書の歴史が深く関係しています。

  • 漢字は、中国で発明され、日本に伝来した文字。
  • 平仮名は、平安時代~の和歌に用いられた文字(女手とも)。

という知識は何となく知ってますよね。

中国から伝わった「書」と日本人が築いた「書」が融合する形で現在の漢字仮名交じり文に至るわけです。

日本の書道史と中国の書道史 図解

これはつまり、私たちが表現できる美的な「書」には、

  • 中国の書風を取り入れた「唐様の書」
  • 日本の風土・感性を汲み取った「和様の書」

大きく分けると2つの書流が根幹にあって、どんな名筆を学び表現するのか、そのさじ加減によって、唐様・和様の傾向を感じ取れます。

その点を踏まえて、硬筆の手本を見比べてみますと、書きぶりの違いが分かりやすいです。

「和様」を感じる、狩田巻山先生の手本

和様は、筆致に柔らかさが伴っている点が特徴で、書風の印象は、柔和[ものやわらか]、温和[優しく穏やか]といった言葉が当てはまります。

狩田巻山先生の手本

『短期上達ペン習字』p11,45 より)

一見すると、趣があるようでいて癖とも取れる独特な手本のように感じるかもしれません。

狩田先生の経歴が分かる記述

狩田巻山先生は奈良県桜井市の農家のご出身、奈良師範など関西の学芸大、教育大教授を歴任後、定年を機に状況、大妻女子大、東京教育大教授として書道教育に当る傍ら八十九歳で病没されるまで書写技能検定協会会長を務められました。

40代には仮名の大家、尾上紫舟氏の門下生として和漢朗詠集、高野切など平安時代の古筆書法の研究をされ数十年に亘って、指導書、論文など詳細明解な著書を多数製作出版されました。

『わかくさ通信』歳時記 2016年2月号

狩田先生が書かれる硬筆の手本は、日本の古筆を中心に研究されていた経緯も影響してか、全体的に丸みを帯びた柔らかさを感じる書きぶりとなっており、和様の雰囲気がよく表れていると思います。

「うーん、この手本はちょっと合わないかも」と感じた人、その感覚はある意味で間違いではないと思います。

「かきかた」の授業で習う手本

(『新編 新しい書き方 六』東京書籍 p21 より)

というのも、当時、小学校の「かきかた」の授業で習ったのは、割りと骨組みがしっかりした上記のような手本ではなかったでしょうか。「美しい字とはこういうモノだ」と学童期を通して備わった審美眼は、馴染みのない和様手本に対して違和感を持つ傾向にあるようです。

「唐様」を感じる、日本ペン習字研究会(日ペン)の手本

唐様の特徴は、中国古典の漢字をベースとした筆致にあり、書風の印象は、骨太[安定した]、悠然[落ち着きのある]といった言葉がしっくりきます(私の中では)。

田中鳴舟先生の手本

(『硬筆書写テキスト3』p36、日ペンボールペン習字講座『基本編1』p14,15 より)

日本ペン習字研究会(日ペン)とは、三上秋果先生が確立した書風に倣う団体のことで、その手本は、楷書らしい楷書とでもいいますか、隙がない調和がとれた書きぶりで、漢字が特に凛々しく見えます。

三上秋果先生が 辿った道筋が分かる記述

三上先生は素堂先生、豊道春海先生などを通じて唐様というか、当時最も本格的、最先端の中国金石派の書法を学ばれ、それにプラスして春堂先生の和様風を手に入れられた、天稟の才を以って和漢の長を併せ採られたわけです。

欧陽詢や遂良の書風を論じ、ペンでの臨書の範を示されたりもしておられました。行草においても唐様をベースに、趙子昂を通じて王羲之を窺うという姿勢であったと私は思っています。

『ペンの光』2016年7月号 p15

三上流の書風は、唐様が7、和様が3といった対比で整然たる印象が強い書きぶりです。

残念ながら三上先生の著書は絶版となっているため、書店で三上流を確認する際は、門下生の方が出版している書き込み式練習帳を探してみてください。

現在の日ペン手本は、上記画像のような、硬筆の基本用筆(起筆、終筆、とめ、はね、はらい)を身につけるペン習字入門教材としての特色が濃くなっています。

そもそも手本の良し悪しが分からない問題

2種類のひらがな手本を比較

参考までに2種類のペン字手本を紹介しましたが、「正直どちらもピンと来ない」という感想を持たれても何ら不思議なことではないですし、結局のところは、その手本が「好きか嫌いか」という好みの問題に落ち着きます。

書きぶりの好みで選んでしまっても大丈夫

イラスト [好きな手本に出会って没頭するまで]

ペン習字の手本選びについては、徹底的に自分本位になって選り好みした方が練習継続の一助になると考えています。「好き」による推進力は何ものにも代えがたいからです。

  • ふわっとして温かみを感じる手本が好き。
  • 起筆や折れがしっかりと決まり、基本に忠実な手本が好き。
  • 落ち着いてしっとりとした、趣を感じる手本が好き。

「この字はなんか好きかも」「ちょっと書いてみたいかも」そういったフィーリングで習う手本を決めてしまっても、私は全く構わないと思います。

少なくとも、ペン習字においてトレンドに乗るという行為はほとんど意味を成さず、先生の肩書きが素晴らしいから、権威のある団体だから、友人が強く勧めてくれたから、といった主体性がない理由で習う手本を決めてしまうと、遅かれ早かれ挫折に結びつきやすいです。

個人的な経験としては、手本に対する強い憧れがモチベーションを大きく左右するため、感性の赴くままに決めた手本の方が結果的には長続きするように感じます。

次のページでは、「それじゃあ実際に練習を始めるとしたらどんなやり方があるのか」予算に合わせたペン習字の練習方法を紹介していきます。

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ペン習字を自宅で学ぶ4つの方法