何回出品しても「さっぱり昇級しない」「何がダメなのか分からない」そんな人のために『ペンの光』で昇級・昇段するのに必要な心得をまとめました。
私の方から「こうするといいですよ」と助言するよりは、審査員の「生の声」を知った方がずっと役に立ちますし、誰もがその情報を手に入れることができます。
『ペンの光』内で優秀作品を掲載するページでは、審査員による講評文を添えています。
昇級・昇段のコツは、過去の作品講評から審査員が何を求めているのか、ここを知ることがひとつの転換点になるのではないかと考えます。
そこで、『ペンの光』2013年2月号~2016年12月号(約4年間)の観測範囲から、規定部・筆ペン部における昇級・昇段に寄与する心得について、意図が同じと思われる審査員のメッセージを掲載回数の多い順に紹介します。
まずはじめに 審査における具体的な観点について
日本ペン習字研究会では審査の観点が決められています。
- 字形のとり方、文字の大小、線の太細、字間、行間に至るまで体裁よく仕上げられているか。
- 手本の観察は正確、緻密でよく消化されているか。
- 書写の基礎的な技能にどの程度習熟しているか。
- 使用筆具を十分に使いこなしているか。
そして、文字の造形的な面の書写表現能力をみることを基本的な観点とする、などです。
- 『ペンの光』2014年02月号
郷に行ってはなんとやらで、自分の我を通した作品を出品するよりは、その団体が掲げる社是や理念、方針のようなものを汲み取り、作品化した方が評価は確実に上がります。
日ペンの場合、「三上流による書きぶりを第一義とした作品を出品して欲しい」そんな意図があるように私は感じます。
独創的な形や線を表現してください、といった意図はなく、日ペンの手本と後述の動画資料を参考に書写すれば、個人購読者でも着実に昇級できる仕組みになっています。
「規定部」昇級・昇段、練習のコツ
支部・氏名欄も審査対象に入ります [言及:5回]
作品の評価は課題に加え、支部・氏名まで含めた全体の出来栄えをみて順位付けを進めます。
課題がいくら抜群の仕上がりでも、支部・氏名が未熟では上位は望めず、また課題と異なる書体で書かれていた場合もよい評価は得られません。
- 『ペンの光』2015年04月号
「支部・氏名も端正に書き上げると、作品全体のレベルアップにつながります」といったメッセージを、審査員側は結構な頻度で周知しています。
また、競書券を斜めに貼ってしまうことで、競書の文字自体が傾いて見え、この不備も審査に影響するようです。
競書の仕上げは最後まで慎重に行なってください。
書き上げた作品は、遠くに掲げて観察してみよう [言及:3回]
一枚書き終えるごとに、作品を持った手をいっぱいに伸ばして、字形だけでなく、行や縦線が傾いていないか、字粒や字間はどうかなど、ご自分の目でチェックすることが上達の近道です。
机の上においたまま、書き終えた状態で見るよりも、直したいところがずっとハッキリ見えてきます。
- 『ペンの光』2013年05月号
作品を遠くから眺めて全体のバランスを注視すると、文字の浮き・沈み、字間の狭い・広い、文字の大・小などがはっきり分かります。私もよくやっている見直し方法です。
用紙に合わせた下敷きを作ろう [言及:3回]
行中心となる基準線を引いた下敷きをつくり、課題の解説と引き比べながら、どの字のどの位置を行中心に配すればよいか、イメージをしっかり頭に入れてから作品にとりかかる……準備に手間をかけること、それが結局はよい作品づくりの早道といえるのではないでしょうか。
- 『ペンの光』2013年10月号
日ペンでは下敷きを用いた清書を推奨しています。
私が使用している下敷きフォーマットでよければ、印刷して使ってみてください。
積極的に自己添削しよう [言及:2回]
効果的な練習方法としてはお手本をよく観察し、説明をよく読んで清書します。お手本と比較して、赤ペンで一度添削をしてみます。
繰り返すことで、上達が望めます。このフルコースを一度ためしてみてください。
- 『ペンの光』2016年10月号
失敗作の中に隠れたヒントが詰まっているのに目もくれず、淡々と書き続ける練習法は、自ら袋小路に入っていくようなもので、少しもったいないです。
赤ペンで自己添削するのが手間と感じる人は、先ほどの「遠くに掲げて俯瞰」を行うだけでも改善すべきポイントが見つかります。
続いて、筆ペン部の練習のコツを紹介します。
「筆ペン部」昇級・昇段、練習のコツ
筆ペンの用筆について [言及:随時]
筆ペンマスターの第一は軸をほぼ垂直に立てて書くことだと考えています。
そうすると線がスッキリと引き締まり、はね・払い・転折等々がこなしやすくなります。
軸を立てることは誰にでも簡単にできます。軸を立てて書く習慣が身についていないだけです。
- 『ペンの光』2016年11月号
筆ペンによる清書は、本当に難しいですよね。小筆の扱いに慣れている人だと尚更書きにくく感じるかもしれません。
製造メーカーによって、穂先の弾力や長さ・幅が変わりますので、早い段階で1種類に絞って使い慣れる方法が上策です。
課題の備考欄に記載された「手本の執筆に使用した筆記具」もなにかと参考になります。
筆は立てて手のひらの中にふんわりと空気が入っているようにしましょう。
コツは穂先(筆先)を動かそうとするのではなく筆管(持つところ)を上下に動かし力の強弱を試してみてください。
- 『ペンの光』2015年01月号
ここでも「筆を立てて持ちましょう」というフレーズが出現しています。
加えて、硬筆だと段位クラスに相当する技術「上下の動きを加味した運筆」を意識することが筆ペンでは大切と仰っています。
筆ペンは常に筆先が後からついて来るよう「入筆」を始め「転折」で穂先を起こすことで筆勢のある線質になります。
「右ハライ」の肉付けは圧を掛けたり抜くなどし、穂先の開閉をうまく利用しながらゆっくりと運筆することで安定したよい仕上がりになると思います。
- 『ペンの光』2016年06月号
筆ペンで文字を書く、線を引くとき、もっとも重要なことは穂先を利かすことです。
筆ペンの毛先を紙面に軽く突いてから、必要な筆圧を加えてスーッと運びます。
送筆部分でなるべく渋滞しないように書き進めることが大切です。穂先に注目しつつ流れよく、入筆に当たってはテンポよく…がポイントとなるのです。
- 『ペンの光』2016年12月号
穂先を自在に操ることが上達の秘訣とはいうものの、文面だけで筆ペンの用筆法を理解するのはなかなか難しいように感じます。
筆ペン用の下敷きを作ろう [言及:3回]
初歩的なことになりますが、中心を通しやすく書く為の下敷きも色々工夫して作ってみましょう。
例えば、中心線と更に左右同じ間隔で計三本、または、5ミリ方眼紙を利用するのもよいと思います。この時に重要なことは、手本にも使用する下敷きと同寸法の線を入れることです。
- 『ペンの光』2013年09月号
筆ペン部の講評においても下敷きの必要性について言及しています。
下敷きの有無で、作品の完成度はまるで変わりますし、わざわざ「下敷きを使いましょう」と明示してあります。
「はぁ、そうですか」で終わる人と、このメッセージを勧告と受け止め実践する人とでは、明確な差が生まれるのは当然ですよね。
もちろん下敷きの使用を推奨する意図を汲み取ることは大切です。
文字を習うということは、初心者の場合、手本の形を忠実に真似ることです。目に見える姿形を正確に追ってゆけば万人が上達できます。
- 『ペンの光』2013年07月号
『ペンの光』内では、こういったメッセージを頻繁に発しているんですね。この文脈を読み取ると、下敷きは必須アイテムなわけです。
一方で負の側面もあります。書写力ばかり上達し、手本がないと実用に活かせない弊害が生まれ、授賞式に出席するレベルの人ですらそんな悩みを抱えているお話が2016年11月号には掲載されています。
その解決策として、「日常のあらゆる筆記場面でも、習った字を念頭に丁寧に書くこと」といったアドバイスが記載されていました。
競書作品を仕上げたら、最後に手本なしでも同じように書けるのかテストしてみるだけでも、書写と自運の力量差を知るきっかけになりますし、この差を埋めることがペン習字の本分になると私は捉えています。
カスレは厳禁 [言及:2回]
筆ペンにおいて、先ず注意していただきたい点は、「カスレ」のない線質で書くことです。
書き損じの用紙などに必ず試し書きをして墨量が一番よい調子になったことを確認してから清書に取りかかられることを心掛けてみてください。
- 『ペンの光』2013年12月号
毛筆の表現方法とは異なり、筆ペンではカスレを出さずに線の変化を表現する不文律があるようです。
この他にも、書字上達に役立つ情報が「漢字部」「かな部」「受検部」の作品講評、「日ペン会長のコラム」「編集後記」などに多く掲載されています。
気になった箇所をスクラップしておき、1年後に見返すと、当初とは異なる気付きが見つかるかもしれません。
競書のしがらみに毒されないために
競書は方便
とは、書道との付き合い方を解説したサイト 多木洋一「書を楽しむ法」に出てくる言葉で、競書による学習法をここまで端的に表す一語を私は他に知りません。
思うのですが、数値化しにくい書字の技術を級・段位という形で測定する以上、何らかの評価基準は絶対にあるはずなんですね。これはどの団体もそうだと思います。
なので、成績が停滞するとモチベーションが下がるという人は、貪欲なまでに審査の評価基準を知り尽くすことが最短かつお手軽な攻略法になります(数稽古は大前提として)。
冷めた目で見ると、競書とは表面的な番付に過ぎず、競書の成績ばかりに因われていると、自分が築き上げていきたい書字の方向性をいつか見失います。
それでも、ペン習字の”いろは”を習熟するまでは、たくさん褒めてもらってどんどん昇級した方が俄然楽しいですし、競書を通じて学べることはたくさんあります。
特に日ペンでは、手本の書写を徹底することで、緻密な「再現力」と「観察力」が養われます。
ここで得た経験値はペン習字に限らず、様々な書字分野で順応を早める基底能力になると考えます。
どんな経験も一つとして無駄なことはありませんので、徹底的に成績上位を目指すやり方もその人だけが持つ経験則になりますし、ひた向きに取り組む姿勢は無条件に素敵です。
1日でも長くペン習字を続け、色々な気付きを得るためにも、今回紹介したコツを活かしていただければ一会員として嬉しく思います。
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