ペン習字教本では珍しいDVD付きの書籍です。
本書では、「手書きの文字には、その人の個性が表れるものだから、必ずしも手本とそっくりである必要はない」
というスタンスのもと、相手が読みやすく、自分の思いがしっかりと伝わる字を目指すための美文字テクニックをDVDに収録しています。
それぞれのチャプターで解説する美文字ルールを書籍の内容と照らし合わせながら学習を進める形式になっています。
DVDだから伝わりやすいところ
従来のペン習字教本では伝えづらかった点が動画解説によって分かりやすくなりました。
動画のメリットが特に活かされていると感じたのは次の2つです。
正しいペンの持ち方が分かりやすい
ペンを正しく持つことは、美文字を書くための「基本中の基本」。
でも、文章とイラストだけでは、どう持てばよいのかなかなか理解できません。
そこで映像を使って、正しい持ち方を360度からご紹介します。
- 『10日で「美文字」が書ける本』 p11 講談社(2013年)
ペン習字は、頭の中で思い浮かべる字体を指先を使って忠実に書き表す技術です。
ペンを持つ手は、意志をペン先へと伝える重要な中継地点であり、正しくペンを持つことで思うような字を書きやすくなります。
そういった正しい基準がひとつ身についていると、頭と体がうまく繋がらない、いわゆるスランプの状態になってもそれは体調の問題だとか、もしくは技術的な問題だとか原因の切り分けをしやすく、深く悩まずに済みます。
文字を書くリズムが分かりやすい
美しい文字にはリズムがあります。
メリハリのあるリズムで書くと、自然に線が美しくなり、文字の形も整ってきます。
テキストだけではお伝えできないこの文字を書くリズムを、DVDではたっぷりご紹介します。
- 『10日で「美文字」が書ける本』 p11 講談社(2013年)
書道の運筆リズムを擬音で表現しています。
たとえば、
- 始筆=「トン」
- 送筆=「スー」
- 収筆=「ピタ」
先生が唱えるリズムの音節に同調しながら書くことで、美しい字を書くうえでの適切な筆記速度が身につくようになっています。
また、繰り返し再生することで
- どの指に力を入れているのか。
- 画から画へ移動するときの空中のストロークはどうなっているか。
といった、細かな動きを観察できます。
もともと持っていないモノを手に入れる簡単な方法は、既に持っている人から借りることです。先生と同じ視野を共有しながら、書き方や運筆のリズムを学ぶのは効率の良い学習方法といえます。
個人的に参考になったのは、囲み文字における右下の接し方ルールでした。
- 「目」は最終画がタテに出ている。
- 「口」は最終画がヨコに出ている。
これには法則性があって、
- 中に点画が入っている場合
- タテ画が突き出る。
- 中に何もない場合
- ヨコ画が突き出る。
感覚で何となく書いていた人も多いのではないでしょうか。ひとつ勉強になりました。
言葉の表現を置き換えると腑に落ちる
本書の特徴は、子どもでも理解しやすい言葉で美しい字に共通するルールを解説している点にあります。
僕は小学校5年生のとき剣道をはじめました。 まず竹刀の振り方から教わるわけですが、いきなり脇をしめろとか、 手首を伸ばせとか言われても、よくわかんない。
釣り竿の先に小石をつけて、 遠くへ飛ばす感じで振りなさい。 あるとき、おじいさんの先生がやってきて、そうおっしゃいました。
すると急に上手に腕が振れるようになった。竹刀を振る動作を、 釣り竿を振る動作に置きかえたとたん、感じがつかめたのです。
感じたことを言葉に表して人に伝えるのは、なかなか難しいことです。
その中で「イメージしやすい例え」は、感覚そのものを分かりやすく伝えるのに役立ちます。
今まで出来なかったことが言葉の置き換えによって理解を促進し、腑に落ちる。本書はそのような「言葉による例え」が上手な本なのだと思います。
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