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【筆ペンと毛筆】書き味の違い、得手不得手について調べてみた

身も蓋もないですが、私は毎日の片付けが面倒に感じると、なるべく手を出したくないと思う性格です。

年賀状や祝儀袋の代筆など、実生活における筆文字は「できればすべて筆ペンで対応したい」と考える横着者が唯一気がかりに思うコト。

それは、毛筆タイプの筆ペンは、書道用具として見なされていない現状がある点です。

「筆耕的な筆文字が上手くなりたかったら小筆を使った方がいい」とは重々承知の上で、筆ペンを本格使用するにあたって、一体なにが妨げになるのか、材質や用筆法の特性について自分なりに調べてみました。

【筆ペンと小筆】違いを分かりやすく比較

筆ペンの代表格「ぺんてる筆」と「かな用の小筆」を比較し、それぞれの違いを表にまとめました。

ぺんてる筆(中字)小筆
毛質ナイロン毛獣毛(主にイタチ毛)
穂先の特徴粘りに欠けるコシの強さ柔らかにたわむコシの強さ
穂先の耐久性摩耗しにくい命毛がすり減るまで
使用後の
メンテナンス
キャップで密閉するだけ穂先の墨を優しく拭き取った後、
陰干し
価格定価540円安いもので800円~

【筆ペンと小筆】準備と片づけの手間を比べると

本格的な筆文字が手軽に書ける毛筆タイプの筆ペン

(毛筆タイプの筆ペンは、とにかく手間がかからず気軽に書ける点が魅力)

墨汁や小皿が必要となる小筆

(3点セットが必要となる小筆。黒色の小皿は墨池の上ぶた。汚れが目立たず、洗いやすい)

支度と片付けがキャップの開け閉めで完了する筆ペンに対して、小筆で書く際は、少なくとも墨汁と小皿が必要で、使用後は墨を洗い落とす作業が加わります1

また、小筆の保管方法についても、長期間使用しない場合は、防虫剤と共に保管し、動物毛と竹軸を食う虫から守る一手間が必要になります。

ペンケースに忍ばせておくだけでいい筆ペンと比べると、天然素材を使用する小筆は、経年劣化を防ぐために日々のメンテナンスと管理知識が欠かせません。

【筆ペンと小筆】耐久性を比べると

穂先の耐久性が高く、長期間にわたり使用可能というコスパの面では、筆ペンに軍配が上がります。

【新品と使い古しの小筆】命毛の消耗を比較

小筆は、運筆の心臓部ともいえる命毛がすり切れてしまうと寿命を迎え、線質のメリハリ機能を失います。

メンテナンスさえ怠らなければ長く使える大筆と比べても、小筆は消耗品としての色合いが強く、廉価なものは品質のばらつきが大きいことから、買い替え費用もかさみます。

ぺんてる筆は、商品仕様によると、カートリッジインク1本でハガキ約80枚(1万6000文字)程度の筆記が可能で、インクを装填したまま数年間放置しても書き味が落ちない人造毛ならではの耐久性があります。

【筆ペンと小筆】書き味を比べると

ただ、素直な運筆が可能(書きやすく感じる)という点では、小筆に軍配が上がります。

ナイロン毛と天然毛の弾力性が分かる検証データ

(天然毛を超えるナイロン毛の弾力性。 PR動画の紹介データより)

穂先の弾力性に着目するとその違いが分かりやすく、ナイロン毛は穂先がよくまとまり、獣毛よりコシが強いです。

ぺんてる筆の特徴は、穂先が元の形に戻ろうとする復元力が高く「粘りに欠ける強い弾力性」にあります。

そのため、動物毛と比べて毛先が暴れやすく、特に転折や右払いといった、いちど止めてから方向転換するような筆づかいでは、軸にひねりを加えないシンプルな運筆が求められます。

穂先の自然なよじれを活かした毛筆の筆づかいに慣れている人にとっては、筆ペンは扱いにくいと感じる傾向にあるようです。

適材適所で使い分けるのが得策かも

以上を踏まえると、「筆ペンと小筆って別物の用具として見なした方が、使い勝手が良くなるのかも」と考えるようになりました。

ぺんてる筆は、かな用の小筆に使用するイタチ毛の特徴を目指して追いつけ追い越せと開発を進めているようですが、40年以上の研究を重ねても、未だ本物そっくりの書き心地には至っていない、というのが私個人の感想です。

ただこれは、個人の捉え方も影響するのかなと思います。

  • 筆ペンを「小筆の代替品」として用いる
  • 筆ペンを「文房具の一種」として用いる

どの方向からスポットライトを当てるかによって筆ペンの利便性は変わり、場所を選ばずキャップの開け閉めだけで筆文字が書ける文房具的な筆ペンは、私にとっては大変使い勝手が良く、日々の練習も捗ります。

一方で、将来的に小筆で書けるようになりたい人にとっては、筆ペンよりも書道用具を買い揃えて習い始めた方が効率が良いでしょうし、その結果、私のように「毎日の片付けが億劫で…」と毛筆から遠ざかる人は、筆ペンという救済措置もあるわけでして。

重要なのは、どんな字を書きたいのか目的に応じた用具を選ぶことにあって、「筆ペンは書き味が劣る=使ってはならない」といった優劣の問題で片付けてしまうと、少しもったいないと思うんですね。

作品づくりといった用途で「筆ペン×かな料紙」はさすがに適しませんが、封筒の宛名書きやお歳暮のお礼状を書く用途でしたら、筆ペンでも十分に代用が利きます。

本格的な筆文字が書ける唯一の文房具毛筆タイプの筆ペンであり、翻って小筆の代替用途には至らない力及ばずの筆ペンでもあり──

この二面性をどう捉えるかによって筆ペンの使い勝手が大きく変わるように感じます。

  1. 墨汁よりも硯で磨った墨で書く環境が理想ではあります []