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「手本を見ながら真似る」 – 4つのステップできちんと書けるペン習字練習法

2つ目のステップ「手本を見ながら真似る」では、手本を忠実に書写する方法について説明します。

「手本を見ながら真似る」のねらいは?

手本を真似て書く練習法は、書道でいう臨書にあたります。

このステップを通してペン習字の筆法を身に付け、見たものを忠実に再現する力を養います

目習いと手習いが同時にできる機会でもあり、ここでの場数を踏むほど頑固なクセ字を矯正できます。

手本を忠実に書写する具体的な方法

市販の教本で書写のやり方を示した具体例は、中山佳子先生の著書が分かりやすいです。

本書では、なぞらない練習法を提案しています。

著者の趣旨はこうです。「手本のなぞり書きは、いわば自転車の補助輪を付けて乗っているようなもので、特に頭を使わなくてもできてしまう。だから身につかない。上達のコツは考えながら書くことにある」と、手本を模写する重要性について説明しています。

既存の書き込み式練習帳は、手本のなぞり書きから入り、徐々に手本離れを促すのがひとつのセオリーでしたが、この練習帳では方眼罫を利用して正確に書写する練習法に主眼を置いています。

本書の練習形式を参考にしながら、バランスの取りづらい漢字「世」を書写する方法を紹介します。

まず用意するモノ

より正確に字形を捉えるために下準備をします。

16分割した手本

16分割した手本

多くの教本では、タテ・ヨコに中心線を引き、マス内を4分割した手本が一般的です。ここではさらに中間の補助線を加え、正方形のマス内を16分割した状態にします。

方眼罫が入った用紙

16分割した方眼罫

実際に書き込むのは、方眼罫が入ったノートが使いやすいです。オススメは、ほどよく大きく書ける8ミリ方眼ノートです。

方眼ノートが手元にない人向けに、印刷して使用できる方眼紙を作ってみました(A4サイズ対応)。

大きい方眼タイプ(タテ7×ヨコ5マス)
9ミリ方眼タイプ。大きく書くことで字形の特徴をつかみやすくなります。
1枚で35回、練習できます。
ダウンロード(PDF)
小さい方眼タイプ(タテ14×ヨコ8マス)
ジャポニカ学習帳「かんじれんしゅう84字」と同サイズのマスを16分割したタイプです。
1枚で112回、練習できます。
ダウンロード(PDF)

これら「16分割した手本」「16分割したマス目」を使って書写していきます。

どのように書写していくか

方眼罫を4つのエリアに分ける

説明の便宜上、4分割しているエリアをA , B , C , Dと呼びます。

1画目

「世」の一画目をどう書くか

1画目の書き出しは、A , C の境目(わずかにC 寄り)から始まります。そこからB , D の境目(ややB 寄り)の位置で収筆とします。

ただまっすぐのヨコ線ではなく、わずかに上向きの弓なり線を描いていることが分かります(私が書いたのは出来ていませんが…)。

2画目

「世」のニ画目をどう書くか

2画目の書き出しは、A , B の境目(わずかにA 寄り)に起筆を入れ、C , D の境目(わずかにD 寄り)まで線を引き下ろします。

マス内を16分割しておくと、書き出し・書き終わりの位置を捉えやすくなります。

3画目

「世」の三画目をどう書くか

3画目の書き出しは、Bエリアの中心よりわずかに左下の箇所から始まります。そこから左下に向けて Dエリアまで線を引きます。

「3画目は、1画目によって等分される」ことを意識すると方眼なしの状態でもバランス良く書けます。

4画目

「世」の四画目をどう書くか

4画目は、2画目と3画目をつなぐように。収筆はわずかに右へはみ出します。

5画目

「世」の五画目をどう書くか

5画目の書き出しは、Aエリアの右下部分から始まり、Cエリアを4分割するヨコ線部分で折れ、Dエリアを4分割するタテ線部分で収筆となります。

文字で説明すると、自分でもげんなりするような分かりづらい表現になってしまいますが、マス内を分割することで、書き出し・書き終わり箇所が分かりやすくなるのは確かです。

理詰めで書けば誰でも上手に

方眼罫を頼りに手本を書写するのは、何かしらの目印を参考にすれば上手に書けるといったひとつの成功体験を目的としたものです。

この場合、感性や直感はほとんど必要としません。理詰めで書けば誰でも手本と同じように書けます。

格子状にしたグリッド線に手本を当てはめ、GPSのように線の位置座標を捉えれば、あとはそれらを辿るだけでいいのです。その中で字形が狂って見えるのは、「座標の位置取りに失敗している」という至って単純な原因に行き着きます。単純明快な失敗ですから改善するのも容易です。

補助線は徐々に減らしながら

書き慣れるにつれて、マス内の補助線は16分割から4分割へと減らし、最終的にはタテの中心線のみで書写できるようになるのが目標です。

というのも、方眼罫を用いた練習法は実践で活かしづらいという難点があるからです。「仮想グリッドを想像しながら書く」という手もありそうですが、あまり現実的ではないように感じます。

また、手本を16分割した練習帳は、冒頭で紹介した中山佳子先生の著書のみで、自分が使用する手本にいちいち補助線を書き込むのは手間であり、面倒です。

慣れてきたら実用向きな書写に切り替える

方眼罫を用いた書写が出来るようになったら、次は「それぞれの線がどのような位置関係を持っているか」といった視点で字形を分析 → 書写します。同じ書写でも意識の転換が少し必要です。

やり方は、前回のステップ「手本をよく見る」で示した観察方法とまったく同じです。手本から読み取れるチェックポイントを利用しながら模倣します。

「世」の手本の見方 その1

「世」の2画目は、最初の画を等分する形でちょうど真ん中を通ります。同時に2画目が字形の中心にあたることが分かります。

「世」の手本の見方 その2

「世」には、線分や空間が等しい場所がいくつもあります。

「世」の手本を書写した文字

このように対象物の寸法を測る見方なら、補助線に頼らずとも字形が整います

いずれの練習法も「見たものを忠実に再現する力を養う」この原則に従っていますから、書き込んだ分だけ着実に技量が身につきます。

特に後半で説明した書写の方法は、手本なしで書く自己運筆の際にもそのまま流用できます。

考えながら書写することが大切

ここまでをまとめると、

第1段階
手本を16分割した状態で書写する。準備が大変だけど、精密に書写できる。
第2段階
手本を4分割した状態で書写する。徐々に養成ギブスを外していく感覚。
第3段階
点画の比率などを基にして書写する。手本なしで書くには、この練習が欠かせない。

少しずつ段階を踏むことで、白地でもきれいな字が書ける技量を養えます。

手本の書写作業は想像以上にむずかしいです。初めは失敗の連続だと思います。

習い始めは誰だって初心者ですから、上手く書けなくて当然です。

だからこそ、出来た出来ないの問題で済ませるのではなく、「どこまで考えて書けたか」を大切にしてください。ペン習字は自分の頭で考えられる人ほど成長の伸びしろが大きいです。

ここで紹介した手本を模倣する練習法を繰り返すだけでも自筆を改善できますが、次のステップ「手本と自分の書きぶりを見比べる」いわゆる自己添削を合わせて行うとより効果的です。

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ステップ3 - 手本と自分の書きぶりを見比べる