通信添削の講評欄で次のような指摘が書き込まれていた経験はありませんか。
- 「もっと線に動きが欲しい」
- 「一線一線の筆圧の変化」
- 「思いを筆圧に込めて」
──とは言われても、どのように実践すればいいのか、よく分からず……。苦しんでます。なにか打開策がほしい。
そこで、およそ10年分の添削結果をすべて振り返り、ヒントになりそうな箇所を探してみることにしました。
線に躍動感が伴わない悩みの解決法について「もしかしてコレではないだろうか」と思うところがありましたので、現段階で分かる範囲をまとめておきます。
※中・上級者向けの内容です
- このページ 3行まとめ
- 動的な字は運筆のリズム感によって表現できる。
- 運筆のリズム感を養うトレーニング法を2つ紹介。
- ポイントは、ペンのバネで筆圧の浮沈を生み出すこと。
「文字に動きを感じる」とは具体的に
私が習っているパイロットペン習字通信講座(A系統)の上級課題では、
- 筆圧の強弱
- 大きい動き
- 線の躍動感
といった課題キーワードが度々出てきます。
(行書の課題でよくいただくお題です)
つまるところ「線のリズム感を表現してください」と私の中では捉えていまして、これがまた難しい。
言葉では伝わりにくいかと思うので、参考になる朱筆をいくつか探してみました。
朱線にはリズム感が伴っている様子が何となく分かりますかね。
私がこのような情緒を込めても字のバランスが崩れてしまい、ぎこちなく見えてしまうんですよね。
正確さを狙った書写練習だけではたどり着けない境地でして、「要は思い切りよく書けばいいんでしょ」という話でもなく、“一字の中にゆったり大きな動きを“という講評が心に残っています。
文字に動きが伴う3つの要素
「動的な字を書くにはどうすれば」という観点で過去の添削を振り返ってみたところ、3つのヒントが見えてきました。
その1. 懐を広く取ると生まれる「文字の明るさ」
1つ目は「余白の光を上手に使いましょう」というアドバイスです。
懐を広く取り、明るく見せる部分を作り出すことで、筆勢や動きが伴います。
その2. 丸みを帯びた「線のねばり」
2つ目は、「行書的な線を意識しましょう」というアドバイスです。
「ねばり」という言葉使いがポイントで、丸みを帯びた線の中に「緩急を込めて」という意味も含まれています。
その3. 線の呼吸を感じる「筆圧の変化」
(運ペンの速度が同じだと、のっぺらぼうに見え、線の魅力に欠ける)
3つ目は、「運筆にリズム感を取り入れましょう」というアドバイスです。
これは単に速く書けば良いというわけではなく、
- ゆっくりの中に速さを組み込む
- 部分的な筆圧の強さ
- 線質に幅をもたせる
といった、筆圧の変化を見せることで生き生きとした線になりますよ、というものです。
このページでは「線のリズム感によって、動的な字を表現できる」という観点を掘り下げて、具体的な表現テクニックに迫っていくことにします。
ペンのバネを使うと「線のリズム感」を表現できる
「線のリズム感」を表現する方法の1つにペンのバネを利かせるテクニックがあります。
このような線の律動感は、
- 筆圧の浮沈
- 運筆の遅速
の組み合わせによって表現できるのですが、「浮沈」とか「遅速」という言葉で説明されてもイマイチ分かりにくいですよね。
線のリズム感を理解しやすい言葉にまとめてくれた書籍があるので紹介します。
リズム感を養うトレーニング「ねこのヒゲ」「まりつきポン」
ペンのバネを使った運筆法のヒントが桜井紀子先生の著書に載っています(パイロットペン習字A系統の添削をされている先生です)。
「ねこのヒゲ」は、運ペンの遅速や筆圧のグラデーションを感覚的に実践できるトレーニングです。
ヒゲの書き方はこうです。
軽く入筆したらじわっと筆圧を入れつつ、ヒゲの先端は速度を早めて軽く抜く。
すると、短い曲線に「線のねばり」と「筆圧の変化」が生まれます。
「ペン先の弾力を使う」とありますが、ソフト下敷きを使えばボールペンでも出来る書き方でした。
まりつき「ポン」は、上へ跳ねる際のリズム感を養うトレーニングです。
跳ねるときに運筆に勢いが出ますので、線は鋭く筆圧は軽くなります。
2つの運筆法がどこに使われているか分かりますでしょうか。
実用する際は、大胆な動きを徐々に小さくして、小さくしたときのリズム感を字形に取り入れるのがポイントです。
本書では、ひらがなを題材に線の躍動感を出すコツについて解説しています。
詳しく知りたい方は、桜井紀子先生(著)『はじめてのペン字』を手に取り読んでみてください。
パイロットペン習字通信講座の機関紙「わかくさ通信」に申し込み方法が記載されています。
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ここから先は、線に躍動感が伴うもう1つの方法について書いています。
動画の方が伝わりやすいので、はじめにリンクを貼っておきます。
参考 ペン字の書き方 - YouTube動画
線の呼吸を表現しやすい書き方のコツについて調べたことを以下にまとめました。
小指球を支点とした書き方がある
線質の幅をつくり出すには、ペンの持ち方を見直すことで状況が好転する可能性があります。
何よりもまず指先をニュートラルな状態に保つ必要性に気付いたのは、「小指」の使い方について言及したブログ記事を読んだことがきっかけでした。
読んだ記事のどれもが小指球(小指側の手のつけ根部分)の重要性について説いており、
- 小指球に意識を置くことで親指と人差し指の動きがより軽やかになること
- 反対にペンを持つ3本の指が力むと、軽やかな動きが失われること
この点を理屈として理解できたおかげで、清書時の「手のこわ張り」や「力み」が消え、徐々に線の抑揚が出せるようになりました。
中でも参考になったブログ記事はこちら。
指先だけで書こうとせず、手のひらの小指側の付け根を支点にして、手全体を自由に動かして書く。
- 桜井紀子先生のペン習字講座に参加してきました | みちくさ通信
くりぼんさんのブログ記事では、桜井先生の指導ポイントがまとめられています。
記憶に留めて欲しいのは「小指球を支点にして手全体を自由に動かして書く」というキーワードです。
関連する記事が2018年2月号の「わかくさ通信」にもありましたので紹介しますね。
きほんのき
私は、字が上手になる原点は「姿勢」と「ペンの持ち方」にあると考えます。
腕とペンの関係を合理的に働かせ、それが理に叶っていると安定感が得られ、緊張感は薄れます。(中略)
ペンを持つ三本の指は…
縦線は人差し指、横線は親指、曲線は中指がそれぞれ手首と共に働くことで滑らかな線を作ります。
- 「わかくさ通信」歳時記 平成30年2月号
みどころは「ペンを持つ三本の指は、手首と共に働く」という記述。
先ほどの「手全体を自由に動かして書く」という文言と表現が似通っていますよね。
つまり、小指球を支点とした力の作用によって、滑らかなペン運びが出来るのではないかという話なんですね。
書き方の違いを比較してみると
小指球を支点とした書き方は従来の書き方と何が変わるのか、図にしてみました。
「8」の字を横向きにして書いたときの各部分の動きを比較してみます。
指先のみで書いたとき、もっともよく動く箇所は、当然ながら各指の関節部分です。これらの動きを詳細に説明するのはとても困難です。
指先のみで書こうとすると、タテの動きに対しては人差し指がもっとも機能するため、土台となる小指の位置は上下には動きません。ヨコの動きに対しては、ペン先の動きに対して小指が左右に少し引っ張られるような感覚があります。
このとき小指球は固定した状態でも難なく線が書けます。
- 感じるデメリット
- 連綿を書く際、ニ字目、三字目と下に向かうほど、ペンの尻軸がお辞儀をするような形となり、線質や字形が歪みやすい。
(指の関節を曲げずに∞を書いてみてね)
小指球を支点とした運筆法は人に説明しやすいシンプルな動きです。それは例えるなら「歯車」です。
小指球を起点とした動きが小指に伝わり、小指を動かしたストロークがそのままペン先の動きに反映される、という説明が私の中ではいちばんしっくり来ます。
小指球の皮膚のたわみを利用すると、わずかながら自在に動きますので、その力をペン先に伝えるイメージで書くと、実践しやすいです。
動画を見た方が分かりやすいと思うので、探してみました。ありました。
「ペン字の書き方」というタイトルのYouTube動画です。
指先にほとんど力が入っておらず、手全体を動かして書いている様子が分かるかと思います。
この基本型に指先の動きを加味すると、小指の動き(ストローク)は小さくなります。
(小指球の皮膚のたわみを利用して大らかにペンを運ぶイメージ)
小指球を支点とした運筆は、一画書くごとに肘と連動する感覚があり、線を書く方向へ上半身も動いてしまうような楽しい筆記感があります(書きながら静かに踊るような感じ)。
おそらく毛筆的な動きに近い書き方なのだと思います。毛筆的な所作を硬筆に取り入れると、小指球が大事な箇所になるんだよというコトなのでしょうね。
小指球を支点とする書き方を実践してみて
私はこれまで美しい線質に必要な要素は、しなやかで繊細な関節運動にあるものとばかり思っていまして。
今まで複数の糸で操っていた人形が、実はタコ糸一本で操作できると知ったときは、大きな衝撃を受けました(指を曲げなくてもペン習字はできる!?…と)。
個人的に感じるメリットは、複雑な指の動きを単純化できる点です。
加えて、指先にかかる負荷もかなり下がるので、疲労感を軽減する書き方としても最適です。
その人にしか分からない感覚的な書き方というよりは、誰もが実践できるテクニックとしての書き方だと思います(そうでないと、この方法を知りようがなかった)。
筆力を生み出す原点が「ペンの持ち方」にある
小指球を支点とした書き方を実践するにあたって、まずは指先の力を最大限に抜き、必要な時だけ力が加わるペンの持ち方を身につけると、線質の幅が広がります。
この持ち方は、指先が脱力した状態だけれども、芯はまっすぐ通っており、なぜか線がブレない感覚があり、その鍵は「小指」にあります。
といった諸々の解説を別記事で読めますので、よかったら試してみてください。
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