私が日ペンのボールペン習字講座を修了したのは2013年のことでした。
受講した当時の感想を踏まえつつこの講座の特徴を説明します。
一言でまとめるなら「硬筆の基礎が身につく教材」+「受講者の気持ちに寄り添った添削」が続ける励みになった講座でした。
公式ページ 日ペンのボールペン習字講座
日ペン講座を受講するきっかけになった1冊の本
いくら練習しても字が上手くならないのは、「手本の見方を知らないから」
「手本をどこまで詳しく分析するか」という目習いのコツを知ったのは、日ペン先生の著書を書店で手にしたのがきっかけでした。
それまで私は、「美しい字が書ける人はなにか特別なセンスを持っているに違いない。だったら、私もその"直感"とやらを磨いていこう」とわけも分からず書写していた時期がありまして……。
しかし、いくら練習してもさっぱり上達の手応えを感じず、「もしかして根本的なところでなにか勘違いしているのかも」と気付いたのは、ペン習字を習い始めてから数ヶ月ほど経った後のことでした。
「自分の感覚で書こうとするから、字が安定しない」
「練習のコツは手本の見方を学ぶことにある」
「考えながら書けば、字は誰でも上手くなるのです」
この事実を知ったときは、センスの欠片もない自分でもまだやれる事はあるのだと一筋の希望が見えました。
(『いつの間にか字が上手くなる本』p28 より)
勘に頼って書く方法しか知らなかった当時の私にとって、"点画をパズルのように組み立てる書き方"を学べたことがひとつの転換点となったのです。
(それから何年も後になるのですが)私がこの講座を受講したのは、「日ペンの手本なら硬筆の基礎固めをしっかりできるのでは」という考えからでした。
結果的に、精密な書写技術が身につくと定評のある日ペンで習ったのは正解でした。
実際に受講して分かった、日ペン教材 3つの特徴
この講座では「まず手本の特徴を知ってから数稽古に入ること」を重んじているらしく、「目習い」に役立つ教材のつくりが特徴的だなと感じました。
一体どういうことなのか、詳しく説明しますね。
その1. 目習いのコツが分かりやすく、かつ実践しやすい
これから字を習う上で「手本をよく見て書きましょう」というアドバイスは、事あるごとに何度も繰り返し耳にします。
でも、習い始めは「手本のどこをよく見て書けばいいのか」結局よく分からず、雰囲気で何となく書写してしまうもの……。
日ペンでは漢字の特徴について、このように説明しているんですね。
こういった、ペン字の先生がどんな点に着目して書いているのかを知ることが、「何となく書写」の状態からいち早く脱する方法であり、練習に手応えを感じるスタート地点でもあります。
その2. ひらがな・カタカナの書き方を一画ずつ説明してくれる
「一画ずつ意味を持たせて書くことが大切」とはっきり分かるのが、この注釈部分です。
一線一線どんな書き方を意識すればよいのかを参考にするにあたって、この解説が役立ちました。
カタカナの「ヒ」は、たった2画の構成なんですけど、
- 同じ長さになる箇所がある
- 2画目の終わりを右に出すことで安定させる
気をつけるべきポイントがよくまとまっており、市販の練習帳と比べてより丁寧な説明になっています。
その3. DVD教材で書き方のリズムが分かる
たとえば、手本をなぞり書きするとき、「そうか、このくらいの速さで書けばいいんだ」といった目安があったら分かりやすくないですか?
先生がどのようにペンを動かしているのかを知るだけでも色々な発見があります。
これはひらがなの「ぬ」の書き方なんですけど↓
2画目のサーキットカーブに入る手前でいちど止まって、そこからゆっくりじわっとペンを運んでいる様子が分かりますかね。
これっておそらく、ペンが止まった箇所で線の引き方を確認(イメージ)していると思うのです。
「大きな曲線を書くときは線が狂いやすいので、一時停止してからゆっくりペンを運ぶ」
こういったちょっとしたテクニックが思い通りに線を書くコツなんですね。
ナレーションによる解説を聞きながらリピート再生していると、このような先生の運筆のリズムが身につきます。
正直、意見が分かれるところ(デメリット)
市販の練習帳にしても、行書を習うページまで進むと「うわ、あまり気が乗らない…」と思ったことはありませんか。
「行書より楷書を上手に書きたい」といった人は実際かなり多いです。
初心者向け講座にしては「行書」を習うパートが多い
(「様」をサラサラと流れるように書けたら格好良いだろうけど、やっぱり難しそう…)
日ペン講座のテキストにも行書を習うパートがありまして、
「私は楷書を中心に習いたい。行書は別に必要ありません」と考える人には、はっきり言ってオススメできない講座です。
「行書がもっとも実用的な書体である」という日ペン側の考え
(「きへん」を三画で表す行書の書き方。一画分だけ時短できている)
日ペンのボールペン習字講座では、楷書に近い「かんたんな行書」をパーツごとに覚えていくのですが、その理由を次のように説明しています。
行書は漢字の書体の一つで、もっとも実用的な書体です。
ここでは、日常のなかで一般的に通用する形(楷書に近い行書)を学びます。
行書は楷書に比べて速く書くことができ、しかも動的な美しさを表現できるところに特徴があります。
- ボールペン習字講座 テキスト第4巻
つまり、実用性の中に美しさがある「用の美」という観点から「日常筆記では行書が書けるようになると何かと便利ですよ」というのが日本ペン習字研究会(日ペン)の考えなんですね。
私もこの考えには思うところがあって、
- 行書の魅力 2つのメリット
- その1. 点画を[連続][省略]することで、速書きしても読みやすい字が書ける。
- その2. 表現の幅が広く、手紙に映える大人らしい字が書ける。
行書体で書くと粗が目立ちづらく、3割増しきれいに見える点で使い勝手がいいです。
なのでもし、
- 「楷書ですらまともに書けないのに、行書を習う自信がない」
- 「中途半端な状態で行書の練習をやるのはどうなんだろう?」
ということでしたら、サラサラと流れるような行書をいちど習ってみてほしいんですね。
大正ロマンのようなレトロでお洒落な筆跡が手に入ります。
(筆脈とは、筆の通り道のこと)
筆脈を実線で表す行書を習うと、楷書の書き方にも見直しが入り、より洗練した運筆ができるようになります。こんな書き方もあるんだなと知っておくだけでも相乗効果があるはずです。
よくいただく質問 Q&A
Q. 日ペンは添削が丁寧と聞くけど、実際のところはどうなの?
A. 学ぶ意欲によって添削量は変わる。だから積極的に質問して、こちらのやる気を伝えていこう。
(年賀状課題の添削はこんな感じ。一字ずつチェックしてくださいました)
この講座では、添削を受け持つ講師が担任制となっており、上達の度合いに応じて、その人がまず改善すべきポイントを教えていただけます。
私の場合は「起筆の書き方」が成っておらず、この点について繰り返し指摘を受けました。
どうしてもうまく書けず質問したところ、起筆を書くコツについて詳しい回答を返信していただきました。
そのおかげで、メリハリのある字が少しずつ書けるようになり、それまでの書き癖が直っていく過程を実感できました。
成績カードの講評欄には添削の注釈だけでは伝わりづらい、より具体的なアドバイスをいただけます。
また、書字力を点数化する評価方法も最後まで課題を提出する意欲に繋がりました。
かなり甘い採点のようにも感じましたが、成長を実感できる物差しがあると、「次も頑張ろう」と思える励みになります。
Q. 1日20分だけの学習量で本当に大丈夫?
A. 「1ページ20分」くらいのペースだとじっくり練習できて丁度いいです。
学習ガイドには、1日2ページ(見開き単位)を20~30分かけて練習してください
とあります。
しかし、テキストを実際に進めてみると、1回のレッスンにしては練習する文字数が多すぎるように感じました。
見開き2ページを1日20分と決めて練習する場合、1文字につき2分程度の練習で終わってしまい、これでは少し勇み足なような気もします。
そこで、個人的には1日1ページを1年かけて取り組む進め方を推奨したいです。
この講座では受講期間が6ヶ月で修了するカリキュラムが組まれていますが、期間内で終えることが出来なかった人のために最長1年まで無料延長できる措置が取られています。
1日1ページの練習量でしたら、その日のレッスンを復習できるトレーニングブックにも手が伸びますし、用意されたテキストをフルに活用できます。
ペン習字が上手くなるコツの1つに「一度に習う文字は少なく」があります。
通常のカリキュラムの通りに進めると、約150日(半年間)で終わる内容になっていますので、この期間を2倍に伸ばして無理のないペースで1つの文字にじっくりと向き合う時間を作ると、目習い・手習いが着実に上達します。
ペン習字を続けて良かったと思う出来事
就活できれいな字が役に立った
深刻な人手不足といわれる現在とは打って変わって、求人倍率が今よりもっと低迷していた頃の話です。
「手に職を付けたい」という理由から無謀にも未経験の仕事に応募したことがあります。
興味半分で応募したこともあって反応はそれほど期待していなかったのですが、運良く書類選考が通って面接までこぎつけることが出来ました。
最終選考は当時の社長(老年の男性)との面接でした。
自己紹介や職務経歴について確認されたあと、履歴書に目をやりながら「字が上手いようだけど何か習っていたの?」と聞かれ、通信教育でペン習字を習っている旨を伝えると納得した様子で深くうなずき、その後の受け答えに対する反応がやたら好感触だったのを今でも憶えています。
後日、内定の連絡をいただいたときは、ふと「まさかペン習字のご利益では」との思いが頭をよぎりました。
ネット上では「字が綺麗だからといって採用に結びつくことはあり得ない」というのが大方の意見です。
私も文字の美しさだけで「この人と一緒に仕事をしたい」とは思えませんし、直接的な合否とは無関係だと考えています。
ただ、丁寧に書いた文字の痕跡は「とりあえず一度会ってみたい」と思わせるだけの材料になり得る感触はありました。
言ってしまえば、たったそれだけのことですが、その分野での実務経験が皆無で、人間性とやる気しかアピールできるものがないとしたら、「丁寧に書いた文字」は頼れる戦力になります。
きれいな字が人の心を動かすこともあるんだなと思った過去の体験談でした。
個人的な総評
さいごに日ペン講座の特徴をまとめておきます。
価格と内容のバランスは取れているか
教材の内容は、
- メインテキスト 8冊
- 復習用のトレーニングブック 2冊
- 書き方のリズムが分かるDVD(120分)
- テキストに載っていない字も練習できる『硬筆字典』
- スクーリングに使える 講習会の「無料参加券」
- 住所・氏名の直筆手本
- 添削 計12回
初心者向けのペン字講座は「この手本で習い続けたいとリピーターになってくれる大事な玄関口」と私は捉えていて、その一翼を担う添削講師はたしかな技術力を備えた特別な先生が担っているものと推測します。
特に日ペンの場合、「大規模な団体だから成せる優秀な人材の確保」と「指導方針の共有」が徹底しているため、他講座と比べて担当講師の当たり外れが極めて少ないメリットがあるように感じました。
(美子ちゃんの漫画の宣伝チックな1コマ。毎話恒例の決めセリフですが、あながち間違いでもない感じ)
教材内容を始めとして、深く調べるほど採算が取れているのか不思議に思う面もあり、不当に高いといった印象はありませんでした。
こんな人には不向きな講座です
- 日ペンの手本がどうしても好きになれない。
- 毎日コツコツと練習するのはやっぱり苦手だ。
- 浮かんだ疑問はすぐに解決しないと気が済まない。
ペン習字を習う上で「手本との相性」は重要な項目です。
書きぶりが好みでないと、習い続けるほど辛くなるだけですので、手本に対する「あこがれ」や「ときめき」といった視点で講座を選ぶと、ミスマッチを未然に防げます。
こんな人にオススメします
- ペン習字の基本をイチから学び直したい。
- 上達の度合いをプロの先生にチェックして欲しい。
- 月1回のペースで課題を提出する"締切"があった方が勉強が捗る。
日ペンの手本が気に入り、ペン習字の基礎を学びたい人には最適な講座です。
数あるペン字通信講座の中でも「手本の目習い」に焦点を当てた教材のつくりになっていました。
1年かけて修了する場合、1ヶ月あたりの受講料は、約2,400円となり、教室に通うときの月謝代と比べて、費用をかなり圧縮できます。
私的おすすめ度:
私がこの講座の受講を決めたもう1つの理由は、講座を修了した後に次のステップが用意されている点にもありました。
受講期間を終えたら「あとは一人で頑張ってね」といった講座も存在する中、日ペンのボールペン習字講座では『ペンの光』という競書誌の購読を次のステップとして推奨しています。
同じ手本で練習を継続できる仕組みが整っていて、長く面倒を見てもらえる講座を選ぶのも上達の秘訣です。