ペン習字に関する書籍でよく見かけるのが「○日であっという間に字が上手くなる練習帳」といったタイトルです。
楽して悩みを解決したい人の心理に訴えかける書籍タイトルは、およそペン習字の実情とかけ離れていますが、「上手くなるコツ」という言葉はなんとも甘美で、人の苦悩を和らげる効果でもあるのでしょうか、読み手の好奇心をくすぐります。
思えば、上達の近道ばかりに気を取られていた時期もありました。
ペン習字を10年続けて思うコト、最終回は私が今まで試してきた「上達のコツ」の中でも効果を上げている方法を2つ紹介します。
- 第1回
- ペン習字を10年続けて思うコト 「始めて良かった出来事」編
- 第2回
- ペン習字を10年続けて思うコト 「些細な悩み」編
- 第3回
- ペン習字を10年続けて思うコト 「上達のコツ」編
よく練習した日は十分な睡眠を取る
睡眠には記憶を定着させる働きがあります。
最近の研究では、深い眠りの「ノンレム睡眠」による脳への働きが分かってきました。
浅いノンレム睡眠のときでは,手順記憶を定着する働きがあります。
手順記憶が定着するとは,自転車の乗り方や,習字,スポーツの技術などを身につけることと理解してください。更に浅いノンレム睡眠では,記憶を結合する働きがあります。
- 「勉強に効果てきめんな睡眠」の手に入れ方 – 甲南大学
7時間半の睡眠をとった場合、後半の時間帯に「体が覚える記憶(手順記憶)」が定着するとあります。
「寝る子は育つ」とは言ったもので、十分な睡眠は心と体の安定をもたらすだけでなく、その日に覚えた知識の忘却を最小限に抑えます。
一夜漬けの勉強よりも毎日コツコツ勉強した方が記憶として残りやすい、という話はよく聞きますが、この現象はペン習字の練習にもよく当てはまります。
私がペン習字で心がけているのは、「清書に至るまでの練習を小分けにすること」です。
過去に、どうしても今日中に仕上げたい出品作品があるのに、失敗作ばかり積み上がる日がありました。これ以上は踏ん張れないと音を上げて翌日に持ち越したところ、1枚目にして幾分かマシな出来になっていたことがあります。
睡眠が学習の手助けをしてくれる摩訶不思議な現象を体感してからは、1日の練習量よりも毎日の積み重ねを意識するようになりました。
過度な追い込みを自分に課さなくなったおかげか、ペン習字に対するストレスはぐんと減ったように感じます。
よく眠るだけで課題の完成度が上がるのですから、私たちに出来ることがあるとすれば、次回の睡眠までに程よく練習しておくこと、ただそれだけです。
過剰広告とも取れる「毎日20分の練習だけで字が上手くなる」といったボールペン字講座の謳い文句もあながち間違いではない、と今になって思います。
関連記事)脳の性質を利用したペン字の学習法
書き上げた清書を目の前に掲げて見る
私が購読しているペン習字専門の競書誌『ペンの光』にこんな上達テクニックが載っていました。
一枚書き終えるごとに、作品を持った手をいっぱいに伸ばして、字形だけでなく、行や縦線が傾いていないか、字粒や字間はどうかなど、ご自分の目でチェックすることが上達の近道です。
机の上においたまま、書き終えた状態で見るよりも、直したいところがずっとハッキリ見えてきます。
- 『ペンの光』 2013年5月号
どういうことか、実例を踏まえて説明すると、
机の上に置いたまま作品を見下ろす視点だと、錯視の影響で書き出し部分の文字ほど歪んで見えます。
この状態でチェックしても、直すべきポイントがはっきりしません。
真上から見下ろした状態だと、正すべき字形や字間、中心線のズレなどが分かりやすくなります。
紙面と目線が垂直関係であるほど錯視は起こりづらく、「姿勢を正して書きましょう」という基本的な注意はペン習字の極意とも言えそうです。
先生の添削指導に身を任せた受け身の学習スタイルから一歩進んで、自分で改善点を導き出せるようになると、ペン習字上達のスピードは飛躍的に早まります。
「一枚書き終えるごとに、作品を持った手をいっぱいに伸ばして」という文言にはこんな意味が込められているのだと思います。
コメント
目から鱗でした。
自分の目で見て確かめることの大切さを教えて頂き ありがとうございます。
一夜漬けで睡眠不足になるような 練習方法は 一番ダメなやり方だったのですね。
ペン習字の練習をさぼってばかりでしたが、また がんばってみようという気持ちになりました。
何かひとつでもお土産になるものがあるようでしたら、書いた甲斐がありました。
そうですね。寝る間を惜しんでの練習は、素晴らしい心がけではありますが、
肝心の「脳」としては、「休む時間がないと身体に還元できない…」と
困惑しているかもしれません。
「毎日のちょっとした練習」と「ほどよい睡眠」を実践できる生活スタイルが
何よりの処方箋になると思います。
再挑戦、応援しております。